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「新型うつ」で別人のように“嫌なヤツ”に…家族から見た激変

 ここ数年、「新型うつ」という言葉が多く取り上げられ、読者の方のなかにも耳にした人は多いのではないでしょうか。とはいえ、そもそも「新型うつ」とはどういう病なのか。鬱病と聞けば、なんとなくイメージできるところもありますが、“新型”ではどのような違いが出てくるのでしょうか。  そこで、夫が数年前から「新型うつ」を患い闘病生活をおくる、漫画家の池田暁子さんにお話しを聞きました。池田さんは自身の著書、『思ってたウツとちがう!「新型ウツ」うちの夫の場合』(秋田書店刊)で、「新型うつ」を患った夫との2年間の体験談を描いています。

はじめは”普通のうつ”と同じだった

新型うつ

池田さんの著書『思ってたウツとちがう!「新型ウツ」うちの夫の場合』(秋田書店刊)

「最初におかしいなと気づいたのは、まだ夜が明けないうちから、夫が目覚めるようになったことからです。結婚して数年経っていますが、もともと夫は目覚ましなしでは起きられないような人。それが、毎朝5時頃になると、ムクッと起きて『悪い夢をみた』と言うようになったんです」  また、それだけではなく、「死にたい」が口癖になっていったそう。 「ある日、会社から帰宅した夫が『今日は地下鉄のホームで、このまま飛び込んだら全部終わりにできると思ったんだ』と話してきたんです。いくら『死にたい』が口癖でも、ここまで本気になっているとは思っていなかったのでとても驚き、本格的に慌てました。そこで、精神科関連の仕事をしている友人に相談して、近場で信頼できそうなクリニックを教えてもらい、半ば無理矢理に夫を連行しました」  訪れた病院では、「抑うつ状態」だと診断されたそうです。 「最近の自分の様子をようやっと話す夫の様子を診て、先生は『少なくともまともに働ける状態ではない』、『できることなら仕事もすぐに休んだほうがいい』と言いました。『必要であれば診断書も書きましょうか?』と聞かれたのでお願いしました」  ここまでは従来の“鬱病”と同じような症状ですが、池田さんの夫の場合、ここからが少し違ったようです。

他人を責めるのは「新型うつ」の症状だった

「一番ビックリしたのは、夫がこれまでとは別人のような“嫌なヤツ”になったことです。当時私は、週刊誌に連載を持っていました。ところが、夫が私の仕事に対してダメ出しばかりをしてくるようになったんです。当時はまだ、うつで性格が変化して他罰的になることがあるのを知りませんでした。それもあって、夫の攻撃をいちいち真に受けてしまって、本当に辛かったです。それも、何度も何度も攻めてくるし……。従来の鬱病は自分を責める傾向にあると聞いていたので、思っていたうつと違うと感じました。それに、もともとうちの夫の性格は、温和で優しい人。果たして夫は“鬱病”なのかよく分からなくなった時期もありました」  そして何度も何度も攻められるうちに、支える身である暁子さん自身も、“共倒れ”になりかけたそうです。 「自宅で仕事をしていると、24時間体制で夫に『こうした方がいい』と責められ、私が反論しても話にならない状態が続きました。口論ばかりしていて、らちがあかないんです。そのうち、私までうつが伝染ったような状態になっていって……。プチ家出をしたこともありました」

好きなことはできる、昼夜が逆転

 その後、会社を休み、自宅療養を始めた夫。以前は会社へ行く足取りも重かったそうですが……。 「療養を始めてしばらくして、夫が『北海道旅行に行こうかな』とポツリと言ったんです。私も最初は、『療養中なのに外出できるの?』と思いました。でも、仕事のことを忘れる良い機会になればと思って送り出したんです。そしたら、旅先から楽しそうな写メールがわんさか送られてきて、『こんなのズルイ!』って思いましたね(笑)」  そう聞くと、病気が少し改善したかのようにも思えますが……。 「でも、旅行から帰宅した夫は、すぐにまた塞ぎ込んでしまいました。あの時の元気はどこへ行ったの? と不思議な気持ちでいっぱいになりました」  旅行はできても嫌なことや仕事はできない。また、気持ちの浮き沈みが激しい点も、従来の鬱病と「新型うつ」の違いのひとつのようです。また、性格や仕事への意欲の変化だけでなく、夫の生活スタイルも大きく変化していったとか。 「うちの夫の場合、夕方から夜にかけて憂うつな気分になっていたようで、そのまま寝つけずに朝方まで起きていることが多くなりました」  従来の鬱病だと、朝から昼間にかけて憂鬱な気分に陥りやすいと言われています。しかし、「新型うつ」を患った池田さんの夫の場合は、「うちの夫は会社を休み始めてからどんどん朝起きられなくなっていき、そのまま昼夜逆転していった」そう。 「しかも、夜中にしばしば『ストレスを晴らすために何か食べないではいられない!』と言ってコンビニや牛丼屋さんに行くんです。従来の鬱病だと、食欲が無くなってやせ細っていくイメージですが、気が付けばうちの夫は体重が増加していました(笑)」  さまざまな点において、従来とは違う「新型ウツ」。“鬱病”と思ってかかっていた池田さんご自身も、この違いにはとても困惑し、医学書や関連書籍を50冊以上読み漁ったそうです。ちなみに、「新型うつ」というのはあくまでも俗称で正式な病名ではなく、池田さんの夫の体などに現れた症状は、「非定型うつ病」と呼ばれる病気の症状にとても近かったそうです。  身近な人に上記のような症状が現れたとき、「これは新型うつという病気では?」と気づくことができれば、早めに治療することができるかも……。池田さんの体験談には、そのヒントがありそうです。 ※次回は、周りの人がどう対処すべきかを、池田さんに伺います。 <TEXT/槍田創>
槍田創
学生時代は短距離連覇の敵なし陸上女王。名門青学陸上部に進学するも、「エロ」と「女子」に目覚め、挫折。持ち前の好奇心で取材に邁進する日々
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