それから数日。もう詰め替えには当分困らないし、得をしたと思い込んでいた私は、「少し多めに洗剤使っちゃうもんね」くらいの気持ちで洗濯をする日々を送っていた。1万円買ったとしても、たった300円しか得をしていないというのに、それくらいの心の余裕ができていたのだ。全く安い女である。
ある日、夜中にいつも通りパソコンを開き、原稿を書いていると、いきなり「パンッ!」という、銃声のような大きな破裂音が聴こえてきた。
銃声か!? テロか!? でもここは日本だぞ! 本気で驚き、机の下に身を隠すも、我が家に大きな変化はない。
恐る恐る音が鳴った方に向かうも、足が震えている。怖い……怖いよ!
ドアをあけ、廊下を一歩踏み出すと、とてもいい香りがすると同時に、足元にぬるっとした感覚を覚えた。
ひゃっ! と声を上げ、足元を確認すると、なにか液体のようなものが物置から流れ出ている。よく見て、匂いを嗅いでみると、ほんのりフローラルの匂いがする……。こ、これはもしや……。
意を決して物置のドアを開けると、そこには放り投げられた際に一番下になっていた柔軟剤の詰め替え用の袋が無様に裂け、中身をぶちまけている。床には柔軟剤の香りがほんのり……いや、がっつり漂っている。そう、まとめ買いした詰め替え用の袋が、上に重ねられた袋の重さに耐えかねてついに破裂してしまったのだ。
この詰め替え用、198円……。約200円……。
なんということだ……もうすでに得した金額がほとんどがチャラじゃないか……。
必死に買った柔軟剤も、破裂したあとの後処理を考えたら、金額も時間もマイナスでしかない。何なの……増税……何なの!?
性格の雑さが生んだ不運を増税に当たった。そこしか当たるものがなかった。
必死に広がるフローラルの匂いと戦いながら、この日以降、むやみにまとめ買いはしないでおこうと決めたのであった。
その後、柔軟剤のパッケージに記入してある、“3週間以上香りが長持ち”という文句通り、1カ月以上はこの物置がとてもいい香りだったことを追記しておく。
みなさん、まとめ買いは計画的に!
<TEXT/吉田可奈 ILLUSTRATION/ワタナベチヒロ>
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【吉田可奈 プロフィール】
80年生まれ、フリーライター。西野カナなどのオフィシャルライターを務める他、さまざまな雑誌で執筆。23歳で結婚し娘と息子を授かるも、29歳で離婚。座右の銘は“死ぬこと以外、かすり傷”。Twitter(
@singlemother_ky)
- ママ。80年生まれの松坂世代。フリーライターのシングルマザー。逆境にやたらと強い一家の大黒柱。
- 娘(8歳)。しっかり者でおませな小学2年生。イケメンの判断が非常に厳しい。
- 息子(5歳)。天使の微笑みを武器に持つ天然の人たらし。表出性言語障がいのハンデをものともせず保育園では人気者
※このエッセイは隔週水曜日に配信予定です。