つまり、今後学生の吹奏楽がどれだけ盛んになったとしても、音楽全体の裾野を広げる方には働かず、結局中学や高校での部活としてマニアックな人気となるだけなのではないか。現にメディアの取り上げ方を見るにつけ、そうした思いは強まるばかりなのですが。
「音楽に訓練は不要」などと言いたいのではありません。しかし、番組で紹介されたような“しごき”が、音楽の本流へと通じるのかどうかは疑問です。なぜなら、厳しくしつけてミスをしないように導くのは、ある意味ではとても簡単なことだからです。つまり、
明確な正解があると仮定したうえでの厳しさなのですね。
しかし、音楽はそんなに単純なものなのでしょうか。スタンフォード大学で音楽を教えるジョナサン・バーガー教授は、このように語ります。
<
芸術はあいまいさを受け入れ、創造的に考え、問いかけ、また挑戦することを教えてくれます。>
(『ハーバード大学は「音楽」で人を育てる』)
また、マサチューセッツ工科大学の公報には、以下のような一文があったといいます。
<世界の難題に立ち向かうには技術や科学的創造力に加え、文化・政治・経済活動を営む
人間そのものの複雑さに対する理解が必要である。>
(同上)
こうした諸々を頭に入れつつ、今年のBBCプロムスに出演した子供バンド「Animate Orchestra」のヘロヘロな演奏を見ると、色々と考えてしまいます。
⇒【YouTube】はコチラ BBC Proms: The Animate Orchestra with ‘The Tables Have Been Turned’ http://youtu.be/auXUEJSFv74
もし彼らが日本のコンクールに参加したとしても、とても勝ち抜けないでしょう。けれども、“芸術のあいまいさ”や“人間そのものの複雑さ”に取り組む姿勢では、不戦敗レベルで圧倒的な差がついている。
やはり、“しつけ”で教えられるものには、限界があるように思うのです。
⇒【YouTube】はコチラ Animate Orchestra http://youtu.be/Oal5jFucAqQ
<TEXT/音楽批評・石黒隆之>
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音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter:
@TakayukiIshigu4