こうして歌詞の響かせ方が違えば、当然ボーカルにも影響してきます。すると演奏スタイルも変わってくる。ここはお互いの代表曲で比較してみましょう(冒頭で挙げた動画参照)。
まず「
前前前世」(RADWIMPS)はPVを観ても分かる通り、思わず身体が動いてしまう演奏なのですね。カラっとしていて、歯切れがいい。裏のビートで跳ね上がるバネがあり、歪んだギターの音もスピード感を保っているように聴こえます。短調の曲を中和する軽さが際立っています。

RADWIMPS『音楽と人』2016年 12 月号
「
天体観測」(BUMP OF CHICKEN)は対照的。テンポはそこそこ速いのですが、余韻を引きずるように、湿っていて重たいのですね。こちらは長調なのですが、能天気な明るさとは無縁。あと、このたどたどしさは狙って出せるものではないでしょう。

BUMP OF CHICKEN『BACKSTAGE PASS』 2016年 04月号
最後はちょっとマニアックなお話。BUMP OF CHICKENの隠し味になっている“分数コード”。これがハーモニーの面から全体を盛り上げているのですね。分かりづらいと思うので、ちょっとご説明をしましょう。
ふつうCのコードならば、「ド・ミ・ソ」の組み合わせで主音の「ド」が一番低い音になるのですが、雰囲気を変えたりしたいとき、さらに低い別の音を持ってくることがあるのです。そうすると、たとえば「C/G」(ベース音がソのCメジャーコード)という表記になるので、分数コードと呼んでいるのですね。
このベース音を動かすことで曲の展開に変化を加えたり、藤原基央のボーカルをさらにドラマティックに聴かせたりするアレンジに長けているというわけです。ベース音の置き方ひとつで、“これから何か始まるぞ”といった期待感を煽ったり、一瞬正常なルートから外れた感覚になったりする。
「スノースマイル」やNHK『みんなのうた』でも流れた「
魔法の料理~君から君へ~」などを聴くと、ふわっと浮くような部分があるかと思います。そういう効果を生むのですね。
もちろん分数コード自体それほど珍しいテクではないのでRADWIMPSの曲にも出てくるのですが、バンプみたいに多用して強調しているケースは稀だと思います。
というわけで、“じゃあお前はRADとバンプどっちがいいと思うわけ?”と訊かれたら、けっこう答えに困るなぁというのが、今回いちばん強く感じたことなのでした。
<TEXT/音楽批評・石黒隆之>
⇒この著者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】石黒隆之
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter:
@TakayukiIshigu4