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SMAP最高の名曲「夜空ノムコウ」が言い当てた“かったるい未来”

 さて、こんなことを考えていて思い出したのが村上春樹のある文章でした。ブルース・スプリングスティーン(アメリカのロック歌手。「Born to run」や「Born in the U.S.A.」などの大ヒットがある)とレイモンド・カーヴァー(アメリカの作家。代表作に「頼むから静かにしてくれ」や「大聖堂」など)の共通点を論じたこの一節。
意味がなければスイングはない

村上春樹初の音楽エッセイ集『意味がなければスイングはない』。日本人で唯一、スガシカオが取り上げられている

<その物語に込められたbleakness=荒ぶれた心は、我々の内なる部分のどこにあてはまっていくものなのだろう? そしてその心は我々をどのような場所に連れて行こうとしているのだろう? 我々はその閉じられていない物語を前にして、そう考え込むことになる。それはほとんど当惑に近い感情である。> (村上春樹『意味がなければスイングはない』文春文庫p148、改行は編集部)  SMAPが<歩き出すことさえも いちいちためらうくせに つまらない常識など つぶせると思ってた>と歌うとき、妙に決まりが悪いと感じたことはないでしょうか。“ああ、これワタシ(オレ)だわ”と心を見透かされた気がする瞬間。この「ほとんど当惑に近い感情」を描く点で、スガシカオはこの両者とつながっているのです。

SMAPなき後も「夜空ノムコウ」は歌い継がれてほしい

 そこでまた面白いのが、『意味がなければスイングはない』にはブルース・スプリングスティーン論とスガシカオ論が収録されていること。これは全くの偶然なのでしょうか?  というわけで、「月とナイフ」(スガシカオ)と「The Promised Land」(ブルース・スプリングスティーン)にほぼ同じ言い回しがあることに驚きます。 <ぼくの言葉が足りないのなら ムネをナイフでさいて えぐり出してもいい> (「月とナイフ」 作詞・作曲:スガシカオ) <Take a knife and cut this pain from my heart  Find somebody itching for something to start>  (ムネをナイフでさいて この痛みを取り除いたら とにかく何かやってやろうとあがいてる俺と同じアホどもを探すんだ 筆者訳)  (「The Promised Land」ブルース・スプリングスティーン)  スガシカオがこれまでにスプリングスティーンを聴いてきたかどうかは分かりません。全くの偶然かもしれないし、もしかしたら参考にしたかもしれない。それはどうでもいいことです。  大切なのは、ただの知的関心や娯楽としては音楽と付き合えない“困った人たち”がいて、ここ日本でスガシカオはそんな希少種なのです。だから「夜空ノムコウ」は誰かが歌いついでいかなければならない。リリースから18年経ちましたが、いまだJポップが“終わっていない”現状にその思いは強くなるばかりです。 <TEXT/音楽批評・石黒隆之> ⇒この著者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】
石黒隆之
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4
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