ダブル不倫の代償「お互いにバレて、すべてを失うまで」
浅はかな自分が腹立たしかった
あたしは男の胸を何度も叩き、ナイフを取り出そうとしたとき、白い小さな紙を見つけて手に取った。映画の半券だった。
「娘と昨日、観てきたんだ……」
きいてもいないのに小さな声で男が言った。あたしはハッと我に返った。この人は「おとうさん」だったんだなと。
夫であり父であるこの男を、あたしだけが奪う権利などない。浅はかな自分がひどく腹ただしかった。あたしと逢った日、奥さんは必ず公園に行って泣いていたそうだ。それもあたしの“小説”を読んだからだ。
最後は綺麗に別れたかった。あたしは顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにしながら、何度も男を抱きしめた。出会ってからすでに3年も経っていた。
それなのに、まだ別れられない…
何度も電話番号のメモリーは消した。けれど、メールは消すに消せなくて、ほとぼりがさめて冷静になってから、実は今でも時おり逢っている。ひどい話だ。
「愛している」「好き」なんていう言葉は今のあたしたちにはなくて、たまに逢って肌と心を重ねるだけの関係だ。
不倫は周りを見えなくし、誰かを傷つける不貞行為だ。
奥さんがパンツを洗う人。あたしは脱がす人。と、昔なにかのドラマで言っていた。
あたしは脱がすほうがいいとずっと思っていた。でも、やはり、洗うほうがいいに決まっている。婚姻の事実はとても強くてとても偉大だからだ。
不倫に苦しむのも自分で招いた結果だ、と思いながら今日も生きていく。
<TEXT/藤村綾>
【藤村綾】
あらゆるタイプの風俗で働き、現在もデリヘル嬢として日々人間観察中。各媒体に記事を寄稿。『俺の旅』(ミリオン出版)に「ピンクの小部屋」連載、「ヌキなび東海」に連載中。趣味は読書・写真。愛知県在住。 1
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