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「湘南乃風」は頭いいのかも…屋外で何万人もノリノリにさせられる理由

 7月に入り、これからいよいよ音楽フェスの季節ですね。『氣志團万博2017』への参加が決まった山下達郎や、『ROCK IN JAPAN FES.2017』に出演する桑田佳祐など、大物アーティストたちのステージングを心待ちにしている人も多いことでしょう。

ファンではないけど、あのテンションに圧倒される

 そんな中、筆者が毎年楽しみにしているグループがいます。それは、4人組レゲエグループの「湘南乃風」。 湘南乃風 特別ファンでもありませんし、<おいしいパスタ>(「純恋歌」の一節)的なカルチャーに共感するわけでもないのですが、でも妙に気になる存在ではあるのです。  というわけで、いつもテレビのハイライトをチェックするだけなのですが、それでも迫力十分。他の出演者目当てで来た観客もいっしょになってタオルを振り回す光景には圧倒されます。いつもオイシイところを持っていくのは、彼らなのです。  でも湘南乃風の盛り上がり方は明らかに異質です。爆撃を浴びせるかのような威力で音を出して、オーディエンスを暴れさせつつ、同時に制圧しています。なので、これは客にとっては鑑賞ではなく、逃れられない体験と呼ぶべきパフォーマンスなのでしょう。 ⇒【YouTube】はコチラ 「睡蓮花」MV http://youtu.be/PjGbnPYwt1g  正直言って、曲の違いはよく分かりません。たとえば、代表曲「睡蓮花」のあとに新曲の「Winner」を聞いても、どこがどう違うか説明するのは難しい。10年経っても、やっていることにほとんど変わりはないわけです。  しかし、変わらないからこそ衰えないテンションの高さに気付かされるのですね。インパクトの密度は濃いままでいる。機関銃のようなスネアドラムと、うねり狂うベースラインが有無を言わさず体を動かしてしまう。音楽の打撃面を重視するブレない姿勢は、お見事と言うほかありません。 ⇒【YouTube】はコチラ 湘南乃風『Winner』MV http://youtu.be/vrJmk54zjrA

音楽のスタイルは、まず環境に左右される

 さてこのような話をすると、湘南乃風が肉体派で頭を使っていないように思われるかもしれませんが、そんなことはありません。むしろ、屋外で何万もの大群衆を満足させるという難題に、彼らほど真剣に取り組んでいるグループはいないのではないでしょうか。  80年代に一世を風靡したバンド「トーキング・ヘッズ」のリーダー、デイヴィッド・バーンが『HOW MUSIC WORKS』という著書の中で、音楽のスタイルは環境によって左右されるものであり、何か独特な表現をしたいとか、芸術的な自我から生まれるのではないと論じています。 アフリカンドラム たとえば、リズムが幾層にも重なる打楽器メインの音楽がアフリカで広まったのは、外で演奏して一つ一つの音を区別して聞き取れたからで、学校の体育館みたいに反響した音同士がすぐに混ざり合ってしまう状況だったら、アフリカ人だってわざわざパーカッシブな音楽はやらなかっただろうと。  逆に言えば、転調の豊かな響きが演奏や曲のスタイルに直結するパイプオルガンを屋外で演奏するのは不可能だという意味でもあります。

屋外で数万人をノセられる湘南乃風の音

「“湘南乃風” 宴 ~俺たちと一緒にタオルまわさねぇか!! TOUR2016」

「“湘南乃風” 宴 ~俺たちと一緒にタオルまわさねぇか!! TOUR2016」(今年2月、WOWOWでの独占放送リリースより)

 これを現代のロックフェスに置き換えると、湘南乃風がいかに理に適っているか分かると思います。緻密なハーモニーや、手の込んだ職人的な演奏を聞いてほしいと望んだところで、何万人も集まった屋外ではそれは埋もれてしまう。だとすれば、無数の不規則なノイズや、空中に分散してしまう音響などのデメリットを克服するために、どのようなサウンドやパフォーマンスが有効なのだろうか? ⇒【YouTube】はコチラ 湘南乃風 「純恋歌」(オリジナルver.) http://youtu.be/YQSS7SgGia8  以上を踏まえて、「睡蓮花」でタオルを振りまくり、「純恋歌」の単純素朴なメロディを大合唱するシーンを改めて思い浮かべると、湘南乃風が夏フェスの勝者となるのも当然だと感じるのです。 <TEXT/音楽批評・石黒隆之> ⇒この著者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】
石黒隆之
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4
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