また、『おんな城主 直虎』の信康役ではあまり見られませんでしたが、身体をフルに使った演技も平埜生成の特徴のひとつ。舞台の上でこれでもかというほど自由に動く、動く。
彼の持てる技術をいかんなく発揮したのが、今年3月に出演したこまつ座の舞台『私はだれでしょう』。歌に武術、タップダンス、さらには英語もできる謎の男を演じ、アクロバットまで披露。
本人は公演前の会見で「絶望の稽古場を過ごした」と話しているほど苦しんだようですが、そんなことは微塵(みじん)も感じられず、やはりのびのびとした演技はとても楽しいものでした。
結果として、この難役で現在、第25回読売演劇大賞中間選考会にて市村正親らと並んで男優賞にノミネートされています。
オーファンズ公式サイトより http://orphans.westage.jp/
平埜生成のさらなる魅力として、役の幅の広さにも言及しておきたいと思います。今回、『おんな城主 直虎』で“プリンス”を演じると知ったとき、頭に「?」が浮かびました。なぜなら彼にはそんなイメージがなかったから。
元々、劇団内での立ち位置もあり『オーファンズ』で演じたかわいい弟的役柄を得意としたようです。そうした役も多いのですが、『ロミオとジュリエット』で乱暴者のティボルトを演じて以来、平たく言えば不良っぽい役柄を特にドラマ・映画ではよく演じています。
これが、ややきつめの顔立ちと声量のある太い声と相まってとてもハマっています(初主演を果たしたドラマ『バウンサー』、現在公開中の映画『亜人』『斉木楠雄のΨ難』など)。
主演ドラマ「バウンサー」アミューズ
ですから、気品と知性を備えた爽やかなプリンスという役柄がこれほどしっくりくるなんて…役の幅が広がっているなぁと感心。
しかも、それぞれの役は同一人物が演じているようには見えません(むしろ顔も変わっている気がする)。たぶん本人の個が消えているから、ちゃんと別の人格に見えるのではないかと。
若い俳優さんはどうしても演じている本人の姿が透けて見える人が多い気がします(役柄によってはそれもアリですが、演者の無自覚のうちにキャラクターが見えてしまう)。「この人、実際はどんな人だろう」と思わせる俳優は上手いと思います。平埜生成はどんな人間なのか、本当にわからない。それは俳優としての才能を証明していると考える次第です。
ポテンシャルの高さがうかがえる平埜生成。彼には「若手イケメン俳優」に収まることなく、手堅く役者としての地位を築いてほしいものです。
<TEXT/林らいみ>
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フリーライター。大学院で日本近世史を研究した硬派の歴女。舞台・映画・ドラマが好物。観たい舞台があれば万難を排して劇場に馳せ参じ、好き勝手言っている。たま~に歴史系記事を書く。