また捕まっちゃったニャ~。猫捕獲器に懲りずに入る「ぽー」/やさしいねこ
【やさしいねこ Vol.3】
ある日公園に現れた、ブサイクな1匹の猫「ぽー」。まわりの猫たちからいじめらていた、遠慮がちなぽーのお話を、戦場カメラマンの太田康介さんが写真と文章で綴ります(書籍『やさしいねこ』として好評発売中)。
私のTNR(※)第1号として無事去勢手術を終え、公園に解放され一目散に逃げて行ったぽー。かわいかったなあ。またいつか会えるだろうな……と思っていたら、解放した日の夕方、私の部屋の窓の下を歩いていた(笑)。
※【TNRとは】「Trap Neuter Return」の略で、飼い主のいない猫を保護し、不妊去勢手術を受けさせた後に元の場所に戻すこと。繁殖を防止して無用に命を奪われる猫を減らすための措置で、「地域猫」として一代限りの命を見守っていく。手術を受けた猫は、その目印として耳先にV字のカットを入れられる。
カメラを持って外に飛び出し、ゆっくり歩いているぽーの背中に声をかける。
おーい ぽー!
「はっ」と私に気づいて、ダダーッと駆け出して建物の隙間にスポッと入り込んだ。ぽーは「なぜおまえがここにいるのだ」と驚いていた様子。
捕獲された「最も危険な場所」である公園から、一番遠いこの場所(うちの近く)が安全だとぽーは思っていたことだろう。遠くに行ってほしくなかった私は、それを見越して公園でリリースしたのだった。その後も、何度もうちの近くに現れては逃げていくぽー。
⇒【写真】はコチラ https://joshi-spa.jp/?attachment_id=789303
おっ、またいた(笑)。ぽー、腹減ったのか? ここはいつもご飯をくれる優しいおばあちゃんの家だね。今はあまりにも腹が減っているのか、私がいても逃げようとしない。そうかそうか、腹減ったか……。
あれっ!! く、首輪がない……。
カミさんが夜なべして縫ってくれた文字入りの首輪が! どこで落としてきたんだよ~まったく……。
そうこうしているうちに、ぽーは優しいおばあちゃんからご飯をもらえた。いっぱい食べるんだよ。
ご飯を食べ終わったぽーはこちらを睨みつけ、去って行った。
「もうボクにかかわるなよニャ」
⇒【写真】はコチラ https://joshi-spa.jp/?attachment_id=809367
おそらくこんな台詞を吐いている、ぽーの背中に声をかけた。
おーい、ぽー!!
いえ、呼んでみただけです……。
「用もないのに呼ぶなよニャ」
す、すみません(汗)……。
再びこちらを睨みつけ、ぽーは去って行った。
この頃からぽーは、こんな感じで呼べば振り向いてくれるようになっていた。名前の認識もないのに(笑)。
今晩も、ご飯をくれる優しいおばあちゃんちに、ぽーとミヨコさまが来ていた……。ミヨコさまは町内の長老猫だ。ん? 何か違う! ぽーはミヨコさまが怖くて、一緒にいることはなかったはず。
ち、違う!! ぽーに似てるけど、ぽーよりかわいいぞ!!
名前は「チー」としておこう。似ているけど、チーは鼻が黒く、ぽーのほうがやさぐれているなぁ……。きっと身内なんだろうな。
チーの出現によって、次のTNRの目標は決まった。許可をいただいて、捕獲器「はいるくん」をセットする。チーが餌をもらっている、優しいおばあちゃんの家だ。
捕獲器をセットしてから1時間後に見に行くと、チーではなくぽーが来ていた。
違う! ぽー、お前じゃない!!
これはいけない。このままではぽーが入ってしまう。もうお前には用のない箱なんだ。しかし、ぽーは一度ここに入ってひどい目(去勢手術)に遭っているわけだから、まさか2度も入るまい。いやでも、ぽーだからなぁ(何が)……。
さっさとおいしいご飯を食べて、この場から立ち去ってもらうのだ。ぽーは煮干し入りの高級カリカリをペロッと完食。満足そうに去っていった。
さて、これでやっとチーの捕獲作戦が再開できる。すっかり日も暮れた小一時間後、チェックに訪れると蓋が閉まっている!
やった、入った!
中を覗いてみると、暗くてよくわからないがおそらくチーだろう。
近所の優しい奥さんちに持って行って、懐中電灯で照らしてもらうと……。
……あれ?
…………。
⇒【写真】はコチラ https://joshi-spa.jp/?attachment_id=809377
ぽー、やっぱりお前か!!
中に入っていたのは、またしてもぽーだった。事前においしいご飯をたっぷりあげていたのに、以前に怖い思いをしていたのに、また捕まってしまうという失態……(笑)。もう君は自由なんだからね。わざわざ檻に入らなくても、怖い私に近づかなくてもいいんだよ。
ぽーに邪魔をされ、少しやる気がなくなってきていた私に心強い味方が現れた。うちのカミさんが用事を済ませてさっそうと帰って来たのである。
しかし、うちのカミさんはチーが捕獲器に近づいている時に車で横を通るというミスを犯し、チーはまた逃げてしまった。私は再びやる気をなくした。
ぽーが捕まって警戒していると思いきや、しばらくするとまた来た。間違いなくチーだ。おいしいご飯の入った「はいるくん」を気にしている。それを見たカミさんが少しずつ捕獲器に近づいていく。
だめだって! おかあちゃん、近いってば!!
そんなに近づいたら、入るわけがな……。
……あっ。
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入った。
こうして私のTNR第2号はあっけなく成功したのだった。
<文・写真/太田康介>
【太田康介】おおた・やすすけ●ボスニア・ヘルツェゴビナやアフガニスタン、カンボジア、北朝鮮などを撮る戦場カメラマンとして活躍。東日本大震災後は、原発周辺に取り残された家畜やペットの写真を撮るとともに、飼い主のいない猫のTNR(地域猫化)と給餌活動を続けている。ブサイクで遠慮がちな野良猫「ぽー」の心温まる物語『やさしいねこ』を10月18日に上梓。ブログ「うちのとらまる」http://uchino-toramaru.blog.jp/