10年つきあった彼とは、その後、一度だけ電話で話した。携帯をとりあげられた彼は公衆電話からかけてきて「ごめん」とだけ言ったという。 「私が200万払うことは知らなかったみたいです。だから全部話して、彼からも少し融通してもらうことにしました。最後がこんなお金の話で終わるなんて本当に悲しかった。老後は一緒になろうねとも言っていたはずなのに、妻にバレたら結局、まったく私のことなどかばってくれない。愛情を傾け合ったあの日々はなんだったんだろうと思いました」 　不倫の結末として妻に脅され貯金を全額渡し、あげく親に密告されて会社まで追われたのがユミさん（32歳）だ。10歳年上の会社の上司と不倫関係になり、3年目に妻にバレた。 「奥さんから連絡が来たので思わず上司である彼にすがったんですが、彼は完全に逃げ腰。奥さんは私のアパートにやってきて大きな声で『今どきの子は、平気で人の夫を取ろうとするんだから』と騒いで。裁判にするだのなんだのと脅されて、貯金300万円を渡すはめになりました。 　奥さんは同時に私の実家の両親にも手紙を書いていたんですよね。『他人の夫に手を出すなんて、どういう教育をしているんですか』って。母はショックで寝込んじゃうし、父親は地元の教育者なので、これがバレたらどうなることかと激怒するし」 　会社では彼が彼女を避けるようになる。どうしても話し合いたいと喫茶店に呼び出したら会社を辞めてほしいと言われた。 「これはあんまりでしょう。私にだけ非があるように言われて、さすがに我慢できず会社の総務部に訴え出ました。私は会社を辞めるけど、それで幕引きなのかと総務に言いたいことをぶちまけたんです。結果、私が会社を辞めたあと、彼も飛ばされたようです」 　それでも彼女の払った代償は大きかった。1年たった今でも親からは勘当状態である。ただ、社内でも味方をしてくれた人がいて、その人の紹介で再就職はできたのが救いである。 「不倫がばれたとき、当事者である彼は何の役にも立たないことだけはよくわかりました。金輪際、不倫だけはするまいと思っています」 　夜叉のような妻の顔や、逃げの一手の上司の顔などがときどきフラッシュバックして彼女を苦しめる。次の恋はまだまできそうにないそうだ。 　いっそ裁判沙汰になったほうが金額は安くてすむのだが、なかなかそうはできない事情があるために相手の言いなりに払うしかないのが現状なのかもしれない。 ＜TEXT／亀山早苗＞ ⇒この記者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】 【亀山早苗】 フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数