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ジュリエット・ビノシュ、河瀨直美監督を絶賛。「撮影の手法が新鮮だし快感だった」

『ポンヌフの恋人』『イングリッシュ・ペイシェント』『ショコラ』などで知られ、アカデミー賞のほか、世界三大映画祭(カンヌ、ベルリン、ヴェネチア国際映画祭)すべての女優賞に輝いている世界的な女優ジュリエット・ビノシュ。
ジュリエット・ビノシュ

ジュリエット・ビノシュ

 彼女が永瀬正敏とW主演を務めた河瀨直美監督作『Vision』が公開中です。奈良の吉野を訪れ、山守の智(永瀬)と心を通わせていくフランス人エッセイストのジャンヌを演じたジュリエットの来日にあわせ、取材が叶いました。

序盤の涙は脚本にはないものだった

――電車で森のなかに入っていく最初のシーンで、トンネルを抜けるとジャンヌが涙を流していました。脚本には書かれていなかったそうですね。 ジュリエット:いつも人工的なものの中で生きているから、自然のなかに身を置いたときに、なぜだかすごく感動したの。あの涙は自分でもどうしてか分からずに驚いた。河瀨監督もビックリしていたわね(笑)。 日本の森のなかにある、何か先祖の空気を感じたのかもしれない。うーん、でも説明がつかないわ。人の手あかのついていない自然の風景と、自分たちのルーツとが結びついた感動だったのかしら……。浄化されるような感覚だった。
『Vision』より

『Vision』より

――ジャンヌと、永瀬さんが演じた智との恋愛について感じたことを教えてください。 ジュリエット:興味深いのは、ジャンヌのほうから智に近づいていったこと。ディナーをしていて、智のある言葉をきっかけに、彼女のほうから彼に向かっていった。その言葉というのが、「幸せというのはそれぞれの人の心の中にある」というもの。 それを聞いたジャンヌは、一瞬にして、自分もその幸せを一緒に生きたいと思った。ジャンヌが来訪した理由にはとても深いものがあるのだけれど、智への思い、愛情が、ひょっとして試練を乗り越えることを可能にするのではないかと感じたわ。
『Vision』より

『Vision』より

河瀨監督のメソッドは尊重する。でも24時間、役ではいられない

――河瀨監督は、常々、俳優に「演じてほしくない」と語っています。永瀬さんたちも24時間ずっと役のままでいてほしいと言われたと。ジュリエットさんも同じだったのでしょうか。 ジュリエット:私も“演技”というのは嫌いよ。ダニエル・デイ=ルイスっているでしょ。彼と電話をしているとね、そのときに演じている人物のアクセント、なまりのままだったりするの。まさに24時間、役になりきる俳優ね。私も、自分と役を近づけて真実を探すべきとは思う。でも私自身は、ただ成り切るだけではなくて、再構築、作りこむという作業も大切だと思っているの。 それに24時間ずっと役柄でいるというのは無理。私は女優であると同時に母親でもあるし、仕事と別に生活がある。100%成り切る人もいるし、それはそれでいいと思う。実際、ダニエルはオスカーを3つも取っているしね(笑)。 でも、河瀨監督のメソッドもすごく尊重したい。彼女の作品の撮影では、テイクの切れ間がないの。「アクション」とか「静かに」とか何か合図があるわけではなくて、いつの間にか撮影が始まっていく。手の内がわからないままに流れていく。その方法は新鮮だったし快感だった。彼女は撮影現場を外界から閉ざされた繭のような空間にしていくのよ。スタッフたちも一体となって全身全霊を捧げて真実を撮ろうとしていた。それを見て本当に感動したわ。河瀨監督のことはとても尊敬している。でも、私自身の方法としては24時間役でいる必要はないと思っている。
『Vision』の撮影現場

『Vision』の撮影現場

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『Vision』は6月8日より全国公開中
配給:LDH PICTURES
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