ワンオペ育児はいくらしんどくても、それ自体は死に直面するほどの恐怖とは言えないと思われるかもしれません。ではここで視点を少し変え、家庭における女性の役割を考えたいと思います。
家庭のなかでも、それぞれに置かれている立場や求められている役割があります。夫、妻、父、母、嫁、子どもとして、家事、育児、介護といった家庭内タスクに携わります。それらが各人の時間や能力に合わせてうまく分け合えればいいのですが、誰かひとりに負担がかかったとき、問題が発生します。
ここ日本では、そうした役割をすべて女性が担う傾向にあります。共働き家庭が増えたのに伴い男性の「家庭進出」を進めなければならないと言われながらも、現状は非常におそまつです。
2012年に国際社会調査プログラム(ISSP)が各国のフルタイムで働く男女が1週間で家事に従事する時間を調査したところ、
20時間と答えた日本人女性は62%で、男性はたったの2%。5時間未満と答えた男性は72%で、女性は7%。これだけ男女間で差が開く国はほかになく、「日本は世界一、男性が家事をしない国」だということが明るみになりました。
もともと万引きに限らず、
なにかの依存症になってしまう人の多くは真面目な性格の持ち主です。責任感も人一倍強い。そして過剰に人に気を遣い、他人の評価を気にしすぎます。常に自分はどう評価されているかという捉われが呪いのように付きまとっています。それは、治療の場で接していても感じます。ほとんどの人はとても真面目に通院し、課題に真剣に取り組みます。
真面目であるがゆえに、追い込まれたときの逃げ場や依存先がありません。誰かにSOSを発することもなく、ひとりでストレスを溜めていき、あるとき万引きという越えてはいけない一線を越えてしまうのです。
万引きは犯罪行為なので、発覚すれば周囲からの信用を大きく損ない、社会的な死をもたらします。家庭内での立場も、死んだも同然になるでしょう。しかし一方で、
「死」と隣り合わせだからこそ、人はそのスリルやリスクに耽溺していくのです。
【斉藤章佳 プロフィール】
1979年生まれ。精神保健福祉士・社会福祉士/大森榎本クリニック精神保健福祉部長。大学卒業後、アジア最大規模といわれる依存症施設である榎本クリニックにて、アルコール依存症を中心に薬物・ギャンブル・性犯罪・クレプトマニアなどさまざまなアディクション問題に携わる。2016年から現職。専門は加害者臨床。著書に『
男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)など。
<文/斉藤章佳>