熟年離婚で自由になりたい女性の胸中。『離婚なふたり』に見る熟年クライシス
睡眠時間が1時間でも、弱音を吐かずにやってきた
それを聞いたとき、カヨさんは「自由ってなに?」と問い返してしまったという。
「娘が笑い出したんですよ。自分ですべてを決めていくことだよと言われました。ああ、私は何か自分で決める人生を送ってきたんだろうかと考え込みました」
結婚したのは自分の意志ではある。だが、友だちの紹介で知り合った夫が強烈にプロポーズしてきたため、それに押されたのだ。これ以上、自分を欲してくれる人には巡り会えないだろうと思い込んでいたから。なりゆきで子どもを産み、なりゆきで義父母のめんどうもみた。年子の子どもたちの世話にあけくれ、睡眠時間が1時間でもがんばり続けた。「もうできない」「手伝って」「助けて」とは一度も言ったことがない。
「ひとりになる自由もあるんだ。初めてそう考えました。2ヶ月入院していたんですが、夫の顔を見ると具合が悪くなるんですよね(笑)。もう夫と一緒にいたくないと本当は思っているんだと自分の気持ちを確認しました」
自分の気持ち、本音を確認するという作業を、カヨさんはすべてに対してやってみたという。結婚してから20年以上、そんなことはしたことがなかった。
ついに家を出て、手に入れたものは
「半年以上、そんな生活を続けて、その間、私は娘の紹介で弁護士さんを立てました。結局、夫は渋々ながらも離婚に応じてくれました。離婚後も仕事は続けるという約束で。店以外は財産分与もちゃんとしてもらって。アパートは狭いし、生活だって決してラクではないけど、55歳を前に私はようやく“自由”を手にいれたんです」
独身時代の友人や子どもたちが小さかったころのママ友たちと会いまくった。地域のサークルに入って、昔かじったことのあるギターをまた始めた。ひとりで深夜、映画を観にいくこともある。
「夫のために食事の支度をしたり洗濯をしたりしなくていい。夫が待っているからと自分の行動を制限しなくていい。仕事以外は自分の好きなように生きていい。それが新鮮なんですよね。私は親元からそのまま結婚相手の実家に入ったから、ひとりで暮らしたこともなかったんです」
ひとりで生きる自由。そこにどういう価値を見いだせるのか。それが熟年離婚のひとつのポイントかもしれない。ドラマ『離婚なふたり』は、どういう結末を迎えるのだろうか。
<文/亀山早苗>
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フリーライター。著書に『くまモン力ー人を惹きつける愛と魅力の秘密』がある。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。Twitter:@viofatalevio
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