それでもマサヨさんは迷っていた。子どものために離婚しないほうがいいのではないか、経済的に苦しくなるのではないか、と。だが、高校に入学が決まった娘が言った。
「おかあさんの好きにしていいよ」
私は本当に離婚したいのだろうか。今の生活を失っていいのだろうか。

そんなとき、夫の父親が急死した。どうしてもっと父親と会わなかったのだろう、どうしてもっと話さなかったのだろうと後悔に暮れる夫は涙をこぼした。初めて夫の涙を見たマサヨさんは気持ちを揺さぶられる。
「お通夜の晩、夫と私、ふたりだけで部屋にいるときに思わず夫の頭を胸に抱きかかえたんです。そうしたら夫はどんどん甘えてきて泣きじゃくって。強く抱きしめたら、なんか欲情したんでしょうか、私を押し倒した。そのとき、
思わず夫を突き飛ばしました。慰めてあげるくらいの温情はある、だけど身体を重ねることに嫌悪感がありました」
ドラマの妻と同じように、マサヨさんは自分のとっさの行動に驚いていた。それまでだって年に数回は渋々ながら性交渉を重ねてきたのだから。
「自分の気持ちを確かめたくて、お葬式も終わって落ち着いてから、
夫の誘いに乗ってみたんです。そうしたら翌日、あちこちにじんましんが出て(笑)。しかも性器が腫れてしまったんです。あわてて医者に行きましたが原因不明でした」