「何かというと首を絞められたり殴りつけられたり。肩から腕にかけて広範囲に青あざができて、
真夏でも長袖を着るしかないようなことも多々ありました」
もちろんいつも暴力的なわけではない。ときには涙ながらに「オレ自身、親から首を絞められたことがある」「小学校に入る前に親に捨てられて親戚に育てられたんだ」と言ったこともある。だが、彼の言うことが本当なのかどうか、彼女には確かめる術がない。
働かなかった夫がようやく動き出したのが1年ほど前。さすがにこのままではいけないと思ったのか、かつての知り合いを頼って仕事を始めた。まだ
経済的には安定していないが、精神的にはかなり回復しているようだという。
「夫が早く帰ってきてほしいと言っていたのですが、
私は私で彼との生活が捨てられずにいました。その後、私に男がいるとわかったみたいで、帰ってこいと言わなくなった。私もなんだか夫といるのが気詰まりで……」
そして頼みの綱のオサムさんだが、実は離婚していないのではないかとチサトさんは考えている。ナイショで彼の携帯を見てしまったのだ。妻らしき女性との濃密なやりとりを目にして、「私は誰からも必要とされていない」と感じている。それでいて、オサムさんは彼女を束縛する。
束縛と暴力は愛ではないと頭ではわかっているが、彼と離れたら生きていけないような気もしている。
どうしてそこまで彼に依存するのかわからないのだが、彼女自身も彼への執着の強さを持て余しているようだ。
束縛と暴力が、激しい愛だと錯覚させてしまっているのだろうか。
「子どもは基本的には母のところで過ごし、週の半分くらいは父親に会う生活がすっかり習慣になっているようです。夫は私には呆れているはず。オサムだって結局はいつか妻の元へ戻るつもりなのではないか。私、何をしているんだろうという思いでいっぱいです」
現状を変えなければいけないとは思っている。男としてはオサムさんが好きだが、暴力で支配される関係がいつまで続くのか不安だ。夫はもう自分を妻とは見ていないだろうから、一緒に暮らすのはむずかしい。
「最近、子どもの私を見る目が冷たいんです。母が『おかあさんは仕事が忙しいんだよ』と言ってくれているんですが、何かがおかしいとわかっているんでしょうね。もう八方塞がりだなという気持ち」
若いころからの親友に言われたそうだ。
「ひとりになってやり直せば?」と。その言葉がいちばん正しいとチサトさん自身、思っている。だが一歩踏み出す勇気が出せずにいるという。
<文/亀山早苗>
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