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aikoのラブソングは“くすぶり世代”の傑作。20年の総集編『aikoの詩』

 昨年デビュー20周年を迎えた、aiko(43)。彼女のシングル、カップリング曲をすべて収録した4枚組CD『aikoの詩。』が6月5日にリリースされました。8年ぶりに芦田愛菜(14)が出演したCMでも話題ですよね。 aiko 「花火」、「カブトムシ」、「ボーイフレンド」などの大ヒット曲で、一躍時代を代表する女性シンガーソングライターとなったaiko。同じ1998年デビュー組の宇多田ヒカル(36)や椎名林檎(40)がますますマニアックなサウンドを追求しているのに比べて、aikoはカラッと親しみやすい音楽を作り続けています。テイストとしては、松任谷由実(65)、竹内まりや(64)、吉田美和(54)の流れをくむ、女性ポップスの王道と呼んで差し支えないでしょう。
aikoの詩

『aikoの詩』(ポニーキャニオン)

繁栄のユーミン-ドリカム世代とは違う、aikoの儚さ

 それでもaikoの曲を詳しく聞いていくと、かつての“王道”とは裏腹の儚(はかな)さに支えられていることに気づきます。それは、世代的な断絶と言ってもよいのかもしれません。  たとえば、マツコ・デラックス(46)の言う「ドリカムを好きって言う人は、幸福の象徴のひとつだと思うんですよ」だとか、<毎日がスペシャル>や<クリスマスが今年もやって来る>(いずれも竹内まりや)から漂う、絶対的な充足感。残高不足や老後の不安など微塵もない、ゆるぎない余裕。このユーミンから吉田美和まで通底していた繁栄の感覚が、aikoにおいては著しく希薄になるのです。  「三国駅」(2005年2月16日リリース)の一節が雄弁に物語っています。 変わらない街並み あそこのボーリング場>  不安定な恋愛に揺れる心を落ち着かせるなつかしい景色なのですが、それは同時に好況から取り残され、さしたる成長の恩恵にもあずかれない現実に打ちひしがれる地方都市の姿でもあります。  にもかかわらず、なけなしの希望の残骸に安らぎを見出し、やがて壊れて消えてしまうものをいつくしむ。そんなかすれゆく風景に、いまにも崩れ落ちそうな心象を重ねる見事な手際。日本のヒットチャートにおいて、こんなラブソングを書いたソングライターを、筆者は他に知りません。  このように、ユーミンから吉田美和までの流れが、外へ向かって確立した自己をプレゼンしていくのに対して、aikoはひたすらに内省へと向かいます。同じポップスでありながら、表現のベクトルが真逆を向いている。これがaikoのオリジナリティなのではないでしょうか。

恋人を待って妄想してるだけの「キラキラ」は圧巻

 さらにaikoの内省を見ていきましょう。「キラキラ」(2005年8月3日リリース)は、詩、曲ともに圧巻の出来栄えです。  恋人の帰りを待つ部屋で、ずっと独りごちている歌詞。もちろん、声に出すわけではなく、胸の中でぐずぐずとくすぶっているままのはず。ここで語り手は、まだ起きてもいない出来事について、あれこれ思いを巡らせるのです。寂しくないようにとヘッドフォンで音楽を聞いて外界をシャットアウトすると、最後には心中を図りそうなほどの頂点に達してしまいます。 <風になってでもあなたを待ってる そうやって悲しい日を超えてきた>  そしてこのテンションを維持したまま、<あなたの唇の熱 流れた涙が冷やした 触れてしまったら 心臓止まるかもと 本気で考えた暑い夏の日>と、ついには具体的な死を呼び起こすフレーズへと飛躍するわけですね。  繰り返しになりますが、この歌詞の語り手が実際にした行動は部屋でヘッドフォンをして音楽を聞く、これだけです。その他は、過剰な妄想であり、不必要な心配であり、元をたどれば重たい愛に行き着きます。その重たさゆえに身動きが取れなくなってしまった、バカな“あたし”を詳細に描くソングライティングの妙。
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aikoの歌はデフレ世代のブルース
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