32歳のとき、運命だと思える相手に出会ったのはリサさん(35歳)。美術好きのリサさんがひとりで展覧会に行き、大好きな絵の前で1時間近くぼーっと立っていると、話しかけてきたのがユウタさんだった。3歳年上の彼は美大出身で、高校の美術の教師をしていた。
そのままカフェで話すこと3時間。カフェを出てから居酒屋に移って3時間。そのまま彼の家に泊まってしまったという。
「美術のこと以外でも話が合って。それ以降、毎週末一緒にいるようになりました。彼の友人にも私の友人にも紹介して、誰もが似合いのカップルだと言ってくれた」

何でも話せるし、何でも話したいと思ったから、彼の過去の恋愛も聞いた。彼は彼女の過去も聞きたがった。
「あなたは絶対に情熱的な恋をしたことのある人だと思う、と彼に言われて、私、それまで親友1人にしか話したことのなかったことを言ってしまったんです」
20代半ば、不倫の恋にはまって相手の妻と道ばたで取っ組み合いのケンカをしたこと。家を飛び出してきた彼としばらく自分の部屋で暮らしたこと、そして逆上した彼の妻がリサさんの部屋に突入、彼が刺されてしまったことなどなど。
「結局、ふたりは元の鞘(さや)に収まりました。表沙汰にしたくないということで、金銭のともなわない和解ですんだんですが。確かに情熱的な恋だった。彼には少しマイルドにして話しましたが、それを聞いた彼の顔色はよくなかったですね」
しまった、話さなければよかったと思ったときは遅かった。彼の想像以上の話だったのだろう、彼は黙って帰ってしまった。
「あの経験があったからこそ、私はその後、なかなか恋ができなかった。ユウタに出会ったのはそんな傷がやっと癒えたところだったんです。でもユウタには通じなかった。怖い女という印象だけが残ってしまったようです」
相手が受け止められないであろう話はしないほうがいい。いくら知ってほしくてもどう受け止められるかは、話すほうには予測がつかない。それは狡(ずる)さではなく、ひとつの処世術ではないだろうか。
<文/亀山早苗>
⇒この記者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】