美しくなりたいと行動したことが原因でなくなってしまうのは、とても切ないものがあります。本書ではさまざまな死因から、他人の人生を垣間見られる興味深さがあります。とくに、一人暮らしの人が突然死して死因を確かめる例が多いそうですが、孤独死と孤独は違う、と西尾先生は言います。
「孤独死がいろいろと問題になっていますが、一人でいる人が孤独とは限りません。社会とつながりを持っていれば、孤独ではなくなるでしょう」
確かに本書では、家族と同居しているのにもかかわらず自宅で亡くなってしまった方や、家族がいたからこそ問題が起きて亡くなってしまった方も紹介されています。
「誰かと一緒にいることでストレスになり、それが病気の原因になることもあります。いい死に方、悪い死に方というふうに考えたことはありませんし、こういう死に方がいい、ということも特にありません」
死を間近に診ている先生だからこその客観的な視点だと感じます。しかし人が亡くなったあとに死因を特定することは、残されたご家族のためなのでしょうか?
「そもそも私たち法医解剖医が解剖して死因を調べるのは、死体検案書を発行するためです。犯罪捜査目的の司法解剖を除けば、死因が明らかでない遺体について犯罪の見逃しはないか、あるいは結核など感染症に罹患していないかなどを確認します。死因を特定することには、そうした公益性があります」
私たちの誰もが、唐突な死を迎える可能性があります。死因がわからなければ、解剖に回る可能性がある、ということです。
「外出先などで亡くなった場合、警察が身元を探すのにとても苦労します。スマホは開けないし、持ち物に手がかりがない場合、誰に連絡したらいいのかを突き止めるのに大変な時間がかかるんです。こうした作業で行政の手を煩わせてしまうことになります」
筆者個人的には死んだあとのことはどうでもいいと思っていますが、確かに、なるべく人に迷惑をかけないようにしておくのも必要かもしれません。私たちが常に手元に身元の証明になるものや、緊急時の連絡先を記したものを持っているだけで防げるはずです。本書を読んでいると、人生には何が起こるか分からないなとしみじみ思いました。悲観的になるのではなく、自分の死について考え備えておくことはとても重要なのかもしれません。
【西尾元氏 プロフィール】
1962年、大阪府生まれ。兵庫医科大学法医学講座主任教授、法医解剖医。香川医科大学(現香川大学)医学部卒業後、同大学院、大阪医科大学法医学教室を経て、2009年より現職。法医解剖医として20年で約3000体の遺体と向き合ってきた
<文/和久井香菜子>
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