新夫人は「寝たまんまパンツをはかせて」くれる世話女房

ビートたけし「菊次郎とさき」 (新潮文庫)
母親との関係を語るたけし氏を見るにつけ、「かあちゃん」と甘える女性を欲しているのではないかと想像できた。A子さんは、母のように彼を包み込み、ときには叱咤激励する、そんな女性なのではないだろうか。
たけし氏は著書で、彼女との生活を「食事にも気を使ってくれるし、最近なんか、朝起きりゃ寝たまんまパンツをはかせてくれて」と明かしている。妻との「いい距離感」を強調していたころとは違うスタンスだ。当時は自身の本来の欲求より、若さゆえのやんちゃが上回っていたのかもしれない。若いときは世話女房はうるさいだけ、年齢がいけばそのありがたみがしみじみわかるといったところだろうか。
筆者の知り合いで、飲食業を営む男性が、60代後半になって、突然離婚、再婚した。35年連れ添った妻がいながら、彼は20歳近い女性と恋に落ちた。それでも最初のうちは、「恋愛は恋愛」と割り切ろうとしていたのだそうだ。
靴下をはかせてもらって「スイッチが入っちゃったんですよ」

写真はイメージです
彼は彼女に週に3回ほど会っていた。あるとき、ラブホで彼女が「靴下をはかせてあげたいんだけど、いい?」と遠慮がちに聞いてきたそうだ。彼はそんなことをされたことがないので照れたが、彼女にはかせてもらった。
彼女は靴下をはかせると、ポンポンと足を叩いたのだという。「はい、終わり」というように。そのとき、彼の頭の中を10年ほど前に亡くなった母親の面影が浮かんできた。小さいころ、母はよくそうやって靴下をはかせてくれたのだ。
「それでスイッチが入っちゃったんですよ」
彼はそう言った。その彼女とどうしても結婚したい。残りの人生を彼女に甘えながら暮らしたい。そう強く思ったそうだ。
「女性に甘えたい。それが本音だった。妻は甘えさせてくれるタイプじゃなかったから、私もいっぱしの男を気取っていたけど、本当は弱い自分をさらけ出したかったのかもしれない」
そして彼は妻に家や預貯金をほとんど渡して離婚、3ヶ月後には靴下をはかせてくれる彼女と再婚した。
経営者として今も仕事をしているから、そんな決断ができたのかもしれないが、新妻も自身の仕事を辞めることなく働き続けているそうだ。
あれから数年、彼は今も靴下をはかせてもらっているとにやけた。
「若いときはしっかり家庭を守って子どもをちゃんと育ててくれる女性がよかった。それが前妻だったんですよね。だけどトシをとってくるとこちらも要求が変わってくる。今の私は、とにかく甘えたかったということでしょう(笑)」
パートナーに求めるものが変わっていくのは女性側にもあることだろう。シニアになったからこそ、より自分に合ったパートナーと添っていきたい。そういう考え方が広がっていくのも悪くはない。人は今日より明日、少しでも幸せになりたいのだから。
<文/亀山早苗>
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