宇垣美里「全部がうまくいかなくってぼろぼろだった頃…」/映画『浜の朝日の嘘つきどもと』
元TBSアナウンサーの宇垣美里さん。大のアニメ好きで知られていますが、映画愛が深い一面も。
そんな宇垣さんが映画『浜の朝日の嘘つきどもと』についての思いを綴ります。
●作品あらすじ:福島県・南相馬にある映画館「朝日座」は、100年近くの間、地元住民の思い出を数多く育んできましたが、経営が厳しく、閉館が決待ってしまいました。
そこに茂木莉子と名乗る女性(高畑充希)が現れます。「朝日座」を立て直すために東京からやってきたといいますが、支配人・森田保造(柳家喬太郎)は突然のできごとに驚きを隠せません。
打つ手がないと諦めていた森田ですが、見ず知らずの莉子の熱意に少しずつ心を動かされていきます。
『百万円と苦虫女』、『ふがいない僕は空を見た』などで知られる気鋭のタナダユキ監督が、脚本・監督をつとめ、実在する映画館を舞台にした本作を宇垣さんはどのように見たのでしょうか?
映画が好きだ。その魅力は一言では言い表せないけれど、同じ映画が好きというだけで嫌いな奴のことをちょっぴり見直せたりする。親友と作品の解釈をめぐってシャレにならないけんかをしたこともあった。それくらい好き。
映画館が好きだ。全部がうまくいかなくってぼろぼろだった頃、仕事終わりに映画館に寄ることが心の支えだった。赤の他人同士が、ただ同じ映画を見るためだけに集まり、同じ時を過ごす。ひとつのシーンで皆が涙を流したかと思えば、笑いどころが違っていたり、寝ている人がいたり。何をかはわからないけど、許されたような気がした。だから、大好き。
映画が好きな人はきっと、「朝日座」に自分の大切な映画館を重ね胸がいっぱいになるだろうし、そうでない人にもきっと、私たちのことをわかってもらえる気がしている。
現代のリアルな空気感を切り取っている本作。大切な恩師との約束だから、百年続く地元住民の憩いの場だから。「朝日座」存続を願うそれらの理由はノスタルジーに浸っているにすぎない。南相馬の地域のため、雇用のため、と言われたらぐうの音もでないし、その意見を持つ人だってなんとか南相馬のためにと尽力しているだけで悪者になんてできない。
震災以降、コロナ以降、みんな必死だ。きっとこの問いに正解などない。映画じゃお腹は膨れない。映画じゃ子どもたちはこの地に帰ってこない。でも、映画が、「朝日座」がないと寂しい、満たされない。
配信サービスが充実し、家に居ながらにして最新の映画を見られるようなご時世だ。映画館など、時代遅れなのかもしれない。カタカタと回る映写機のシャッターの狭間、半分暗闇を見ているくせに勝手にそこに感動して、もう少し頑張ろうって思えてる。愚かだろうか、根暗だろうか。でも、どうしても譲れない。だって、あさひと茉莉子が年齢を超えた友人となりえたのは、そこに映画があったからだから。
やっぱり映画が好きだ。映画館が、大好きだ。
『浜の朝日の嘘つきどもと』
福島県・南相馬に実在する映画館が舞台。脚本・監督:タナダユキ 出演:高畑充希 柳家喬太郎 大久保佳代子ほか 配給:ポニーキャニオン ©2021 映画『浜の朝日の嘘つきどもと』製作委員会
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<文/宇垣美里>
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そんな宇垣さんが映画『浜の朝日の嘘つきどもと』についての思いを綴ります。
●作品あらすじ:福島県・南相馬にある映画館「朝日座」は、100年近くの間、地元住民の思い出を数多く育んできましたが、経営が厳しく、閉館が決待ってしまいました。
そこに茂木莉子と名乗る女性(高畑充希)が現れます。「朝日座」を立て直すために東京からやってきたといいますが、支配人・森田保造(柳家喬太郎)は突然のできごとに驚きを隠せません。
打つ手がないと諦めていた森田ですが、見ず知らずの莉子の熱意に少しずつ心を動かされていきます。
『百万円と苦虫女』、『ふがいない僕は空を見た』などで知られる気鋭のタナダユキ監督が、脚本・監督をつとめ、実在する映画館を舞台にした本作を宇垣さんはどのように見たのでしょうか?
映画が好きだ。映画館が好きだ。
映画じゃお腹は膨れない。でも映画館がないと寂しいし、満たされない
宇垣美里
’91年、兵庫県生まれ。同志社大学を卒業後、’14年にTBSに入社しアナウンサーとして活躍。’19年3月に退社した後はオスカープロモーションに所属し、テレビやCM出演のほか、執筆業も行うなど幅広く活躍している。





