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「母親なんて疲れた」『PICU』が見事に描く子育てのリアル。1つだけモヤッた部分も

 ドラマ『PICU 小児集中治療室』(フジテレビ系、月曜夜9時~)の4話が10月31日に放送された。同作は、子ども専用のICUである小児集中治療室“PICU”に勤める若手医師・志子田武四郎(吉沢亮)らが、子どもの命を守るために奮闘する医療ドラマである。
PICU 小児集中治療室

画像:フジテレビ『PICU 小児集中治療室』公式サイトより

4話では“母親”という存在、また役割を軸に展開されたが、どうにも語りたくなる内容だったので気になったポイントをまとめたい。

「“母親”であることから逃げ出したい」という告白

 冒頭、PICUに重症化した生後7日の赤ちゃんが運ばれる。この子の母親・深田奈美(中田乃愛)は20歳の大学生。母親の両親に出産を反対されたために、赤ちゃんは乳児院に預けられたのだった。容態がなかなか良くならず、さらにはまだ名前も決まっていない赤ちゃんをなんとか助けようと、武四郎は奈美と接触を試みようとするも拒絶される。  小さいころに父親を亡くし、母親・南(大竹しのぶ)からの愛情を受けて育ったからか、「母親は無条件に子どもが可愛いもの」という認識が根強く、奈美の気持ちが理解できず途方に暮れる武四郎。  その様子を見た母親・南は「『母親なんて疲れた』って何度も思った」と発言。その場に同席した武四郎の幼馴染で現在妊娠中の涌井桃子(生田絵梨花)にも、「ももちゃんもそんな時、来ると思う。『母親から逃げ出したいな』とか、『自分には育てられないな』とか」という。  子どもを愛している母親であっても、その役割に負担を感じて逃げ出したくなることは何回もある、とわが子にキチンと説明するシーンは斬新だった。

大好きだけど、たまに家族であることをやめたくなる

 2022年3月、『母親になって後悔してる』(オルナ・ドーナト著、鹿田昌美訳/新潮社刊)がリリースされた。そのタイトル通り、「母親にならなければ良かった」と考えた経験を持つ女性たちの赤裸々な思いが記されている。これまでは「母親にならなければ良かった」という感情を表に出すことはタブー視されてきた。しかし、同書の発売や、小説・映画『82年生まれ、キム・ジヨン』を始めとした女性の生き辛さを描いた作品が近年大ヒットした流れを鑑みると、徐々にではあるが母親になった苦労を吐露しやすい空気感が醸成されつつあるように思う。
チョ・ナムジュ 訳:斎藤真理子『82年生まれ、キム・ジヨン』筑摩書房

チョ・ナムジュ 訳:斎藤真理子『82年生まれ、キム・ジヨン』(筑摩書房)

 このシーンでも、南が「『母親から逃げ出したい』と思うことは当たり前」と奈美を始めとした母親の気持ちを代弁しており、これまでにないカタルシスを得た視聴者は多いのではないか。また、ただただ「家族はみんな仲良し」でもなく「自分を虐待した家族が憎い」でもなく、「大好きだけどたまに家族であることをやめたくなる」という新しい家族の描き方を示したように感じる。今後は両極端にならない家族の微妙な距離感を表現した映像作品が増えていきそうな、そんな期待感さえ覚えた。
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“ある違和感”だけは解消されなかった
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