自分をすり減らす働き方は手放してみる。暮らしと仕事への向き合い方
作家、詩人、作詞家として数多くの作品を手掛けている高橋久美子さん。執筆活動のほか、人気アーティストへの歌詞提供、朗読のイベントなどマルチに活躍しています。
そんな高橋さんは、古い一軒家に住み、自家製野菜を使った季節の食事を楽しみ、ご近所さんとの交流など、暮らしを楽しむ一方、愛媛で農業を、東京で仕事をする二拠点での生活を送っています。多忙な生活をしていると、つい日々の何気ないことや喜びなどに気づけないものですが、高橋さんは仕事をしながらもしっかり暮らしを楽しんでいます。
そんな生活者としての何気ない暮らしをまとめた『暮らしっく』を上梓した高橋さんに、暮らしを上手に楽しむコツを伺いました。
――高橋さんはお仕事と暮らしのバランスを上手に保っている印象です。たくさんのお仕事をこなしながらも、食事や趣味、散歩などをしっかり楽しみ、上手に自分をご機嫌にする方法を心得ているように感じます。
高橋さん(以下:高橋):30代半ばくらいから、生活と暮らしのバランスを工夫するようになりました。私は生活を基準に考えているところがあるので、最近は自分のキャパを超える量の仕事は引き受けないようになりました。ベストを尽くすためには、寝る、食べる、散歩をするなど、生活がしっかりと変わっていきながらではないと、長いスパンで続けていくことはできません。仕事と生活がくるくる回って繋がっていくのが理想です。
――仕事を断る勇気を出したきっかけはなんだったのですか?
高橋:作家になって間もないころはがむしゃらに働いていましたが、あるときイベントに立て続けに出演して、その時は楽しいんですが、終わったあとしばらく体と心が疲れてしまっていることに気づきました。自分の声にもっと耳を澄まそうと思いました。
忙しすぎると「次はこうしよう」と考える余裕がなくなって、こなすだけになって自分の成長も望めなくなります。経験を自分の中の知肉にするためには、適度に余韻に浸る時間も必要ですね。仕事を詰め込みすぎて自分がスカスカになってしまっては本末転倒ですからね。
――高橋さんは作家、詩人、作詞家として常に締切に追われたり、アイデアを求められると思います。追い込まれている中で、暮らしを楽しむコツはありますか?
高橋:家の中で追い込まれても何も生まれないことが多い。外にはたくさんのヒントが転がっていますから、少し気分を変えるために散歩をするのがいいと思います。行き詰まったときには、一度自分から離れてみるのがおすすめ。たとえば、私は庭で植物を育てているので、植物に目がいきます。「いつの間にか芽吹いている」とか「花が咲いている」と気づくとそれだけで嬉しくなったりします。
散歩は素敵な出会いに溢れています。散歩中、会話したことをきっかけにご近所さんのお庭の梅の実をいただくようになり梅干しや梅酒をつけるようになったり、玄関の前に「ご自由にお持ちください」と素敵な食器を出しているお家を見つけたり、物々交換や野菜の育て方についてお話する機会ができたりもしました。
散歩のおかげで、ご近所さんとの交流が生まれたんです。ここ数年はコロナ禍でストレスがかかる機会も多かったですが、ご近所さんとの交流が増えたおかげで癒されました。仕事をしているときだけが仕事とは限りません。そういうところからもパワーをもらえたりしますね。
――今、東京だと特にご近所とのつながりが薄いと思います。そういう中ですごく素敵な関わりですね。
高橋:たしかに、人に対して「嫌われたらどうしよう」みたいな不安がありますよね。「余計なお世話だったかな」と後悔することもあります。もちろん相手の方の気持ちはわからないですが、もし嫌だったら「嫌です」って言ってくれると思うんですよね。だから、勇気を出して一歩を踏み出してみることも大切だと思います。
自分のバランスを保つには「暮らし」という土台があってこそ
普段は気づかないけど、外を見たら、面白いものがいっぱい溢れています
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