38歳・松山ケンイチさん「家庭を持った今、死ねない理由が強烈にある」
連続殺人を犯した介護士を松山ケンイチさんが演じ、対峙する検事を長澤まさみさんが演じたことで、早くから話題を集めていた社会派ミステリー『ロストケア』が公開され、さらなる議論を呼んでいます。“死”と向き合う本作。現在38歳の松山さんは、原作小説と出会った20代後半の頃に、すでに“死”について深く考えていたと言います。そんな松山さんへのインタビューを、前後編にわたって送ります。
松山さんが演じるのは、訪問介護でケアしてきた老人たちを手にかけ、「殺したのではなく救ったのです」と主張する斯波(しば)。彼の言動からは、現代日本が抱える問題が見えてきます。
本作は、松山さんが『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』などの前田哲監督とともに、原作の発売当初から温めてきた企画です。映画化に10年を要したワケや、松山さん自身が“生と死”を強く意識するようになった理由に迫ります。
――10年前に出版された、葉真中顕さんの同名小説が原作です。当時から、前田監督と松山さんが温めてきた企画だと伺いました。映画化にここまで時間がかかったのは?
松山ケンイチさん(以下、松山)「これって基本的には見たくない、フタをしていたいテーマなんです。誰だって“死”と向き合いたくはないし、なんとか先送りにしていたい。それをなぜわざわざ表に出すんだということで、やっぱり10年かかったんです。
でも10年の間に、それこそ10年前だとちらほらとしか聞かなかったような、介護殺人といった事件、社会問題が、ニュースやドキュメンタリーで取り上げられるようになって、認知されるようになってきた。今こうやってみんなが気づき始めたから、映画として成立したというのはあると思います」
――確かに、とてもリアルに刺さってくる今日的なテーマであり、作品です。
松山「10年前にこの小説を書いた葉真中さん自体が、まずすごいと思いますが、引きこもりとか、8050問題とかも、ここ数年で一気に認知が広がったんですよね。やっぱり今生まれるべくして生まれた作品なんだろうと思います」
――ちなみに10年前と言えば、松山さんはまだ20代です。この題材に、そこまで惹かれたのはなぜでしょう。
松山「当時、雑誌でいろいろな方と対談する企画をしていて、自然栽培の農家の方とお話をしていたときに、『農は生き方に繋がる』というお話をされていたのが、僕はすごく印象に残ったんです。そこから色々考えて、生きるってことは、その最後の『死ぬ』という部分を意識して『今の生き方』になるのかなと感じるようになりました。
どういう風に死にたいかによって、今どういう風に生きるべきかがわかってくる。そんなことが頭の中にあったときに、『面白い本があるよ』と前田監督から言われて。これは他人が人の人生を終わらせる話。それを“救い”だと言う話。すごく考えさせられました」
映画化までに10年かかったワケ
どう死にたいかで、どう生きるべきかが見える
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