宇垣美里「私の人生の最後の日」/映画『アンティークの祝祭』
元TBSアナウンサーの宇垣美里さん。大のアニメ好きで知られていますが、映画愛が深い一面も。
そんな宇垣さんが公開中の映画『アンティークの祝祭』についての思いを綴ります。
●作品あらすじ:70年以上におよぶ長い人生の終えんを察した主人公が、その半生を共にしてきたアンティークを処分することに…。
主人公クレール役は大女優カトリーヌ・ドヌーヴ。認知力がおとろえ始めた女性を初の白髪姿で演じています。
ドヌーヴの娘のキアラ・マストロヤンニが劇中でも娘役を演じ、母娘共演していることでも話題の作品を、宇垣美里さんはどう見たのでしょうか?
私の人生の最後の日。いつか必ず訪れる、けれどいつになるかわからないからこそ人は生きていける、その日。ある朝起きて、それが今日なのだと気づいてしまったとしたら……?
現実と幻想が曖昧になってきた老婦人クレールは、死期を確信したその朝、たくさんの家具や長年かけて集めてきた高価なアンティークたちをガレージセールで処分することに。
人生を共にしてきたアンティークを手に取ると蘇(よみがえ)るのは、不意に失った息子や、夫との確執の果てに起きてしまった取り返しのつかない後悔、すれ違ったままの娘との関係、囚われ続けた悲しみや後悔の記憶の数々だ。
昔、入院していた母が退院するとき、仲良くなった隣のベッドの女性からミツバチのぬいぐるみを託された。彼女はいずれホスピスに移るという。
「ずっと一緒にいたけど、この子にはもっと明るいところに行ってもらいたいの」
そうして我が家にやってきたぬいぐるみは、一等景色のよい窓際で今日も微笑んでいる。もはや人生や思い出に未練はないと言わんばかりに大安売りするクレールの寂しげな、でもどこかほっとしたような横顔に、彼女のことを思い出した。
「マーヤ、神戸のお空へ飛んでお行き」
そう笑顔で語りかけた彼女はもういないけど、その声はずっとずっと覚えている。絶対に忘れない。
思い出の品々を手放したことで彼女たちの心は解放された。けれどその記憶は、思いは、人生は、モノが大切にされる限り失われず受け継がれ続ける。
衝撃的なラストはまさに人生の花火のようで、その華やかな散り際に清々しさを覚えた。
『アンティークの祝祭』’19年/フランス/1時間34分 監督/ジュリー・ベルトゥチェリ 配給/キノフィルムズ
©Les Films du Poisson – France 2 Cinéma – Uccelli Production – Pictanovo
<文/宇垣美里>
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アンティークに宿る持ち主の人生や思い出は、きっと消えずに受け継がれる
宇垣美里
’91年、兵庫県生まれ。同志社大学を卒業後、’14年にTBSに入社しアナウンサーとして活躍。’19年3月に退社した後はオスカープロモーションに所属し、テレビやCM出演のほか、執筆業も行うなど幅広く活躍している。