「ズルズルダラダラ」し続けるシオが、第三章でやっと文雄との別れを決断する。
しかし、失恋を乗り越え、過去の恋愛とも決別し、優柔不断で人に流されてばかりだった自分にサヨナラ…とはいかないのが、この小説の怖いところである(ちなみに、筆者は第三章のラスト一行で悲鳴を上げてしまった)。
一番の盛り上がりを見せる第四章は、もはや地獄である。
畳み掛けるような角田のモラハラ発言の数々は、ホラーと言ってもいいだろう。角田とシオの両親とのやりとりは、逆に笑ってしまうほどだ。
登場人物全員の悪口を言いたくなったら、著者の術中にハマった
しまおまほ「スーベニア」文藝春秋
主人公・シオは、自分で自分の選択をしない。考えることを放棄し、決定を先延ばしにしたまま、他人の意見に合わせてしまう。
『スーベニア』の帯にある「あなたがくれたもの。欲しくてもくれなかったもの。」というコピーは、「欲しい」と伝えずに相手のアクションを待つだけのシオを、端的に表しているように思う。自分の人生を他人に委ねていると、欲しいものは手に入らないのだと、シオは反面教師として体を張って読者に伝えている。
読み終わった後、主要な登場人物全員の悪口を言いたくなったら、しまおまほの術中にまんまとハマったといえるだろう。
最終章は、突然暗転してエンドロールに入るように、静かなラストを迎える。シオの物語が、読者の日常と地続きであることを示唆するかのような演出だ。
シオは、きっとこれからも何も変わらない。それでも、人生は続いていく。『スーベニア』は、どうしようもなくリアルで意地悪な恋愛小説だ。是非悶絶しながら読んでいただきたい。
「もしこの3人の男のうちの1人と付き合うとしたら、誰にするか」をテーマに、女友達と飲みながら議論するのも、楽しいだろう。
ちなみに、しまおまほの著作はどれも素敵な装丁のものが多いが、『スーベニア』もまた非常にスタイリッシュだ。装画を担当したのは、漫画家・友沢ミミヨと小鳥こたおの親子アートユニット「とろろ園」。表紙の赤ちゃんの肌の色に近い、淡いピンクで統一された装丁が可愛いらしい。
本棚に面置きで飾りたい一冊だ。
<文/藍川じゅん>
⇒この記者は他にこのような記事を書いています【過去記事の一覧】藍川じゅん
80年生。フリーライター。ハンドルネームは
永田王。著作に『女の性欲解消日記』(eロマンス新書)など。