その後、A子さんと直接やりとりをしたとして、「本人は反省しているから、もう責めるのはやめませんか」と擁護するアカウントも現れましたが、A子さん本人のプロフィールや行動の真偽はやはりわからないままです。
夫に家を追い出され、困っているA子さんに物資やお金を送った人がたくさんいたことだけを聞くと、一見あたたかな人情話。だからこそ、不可解な点が多すぎるままアカウントが突然消えてしまったことで「善意に付け込んだ詐欺だ」と結論づけたくなる気持ちもよくわかります。
複数人または複数アカウントで周到に用意された詐欺なのか、はたまた、本当に困り果てて少しおかしな行動に走ってしまっただけの人なのか。真偽がどうであれ、SNS上で知り合った相手をどこまで信用して良いのか、という問題の難しさを私たちに示す出来事ではありました。
実は今回のように、
生活に困っているアカウントがSNSで物資支援をお願いして、後に消えてしまったケースは過去にも何度かあります。困っている人がいれば何か行動を起こしたくなる気持ちは当然ですし、実際に行動にうつすのはとても勇気のあることだと思います。しかし、物資や金銭を支援する前に、もう少し別のアプローチもあるのではないかと考えてみてもよいかもしれません。
今回のA子さんの場合、
金銭をとりあげて乳飲み子を抱えた母親を家から追い出すことは。モラハラを通り越してDV行為です。オムツやお金の支援を募るまえに、A子さんは自分と子どもの命を守るために、行政機関に駆け込むべきです。今回の場合は「雨の中追い出された」とのことなので、なおさら身の安全を確保しなくてはいけません。
内閣府「DV相談+(プラス)」より
平日の日中であれば最寄りの役所の生活支援・母子支援窓口、内閣府の「
DV相談ナビ」(最寄りの相談窓口に転送されます)で相談が可能です。夜間や休日でも、内閣府の「
DV相談+」なら電話・メールで24時間相談を受け付けています。暴力を伴う場合は、警察署の生活安全課に連絡することも一つの方法です。
今はA子さんのアカウントが削除されてしまってコメントの詳細は確認できませんが、モラハラやDVの被害に遭ったことがあり、困り果てた経験がある人ほど、親身になって対応していたように思います。家を追い出されて途方にくれているA子さんに、これらの機関を教えようとした人たちもいたことでしょう。
A子さんの行動の真偽を確かめることも、責めることもできません。DVで困っている人も、支援を必要としている人も、世の中には本当に多くいます。だからこそ、A子さんの行動が「詐欺だ」「嘘に違いない」という論点のみで炎上することは残念でなりません。
物資を支援した人の一人が、「A子さんの真偽がどうかはわからないけど、たとえ設定上でも、A子さん親子が温かい布団でゆっくり休んでいてくれればそれでいい」とリプ欄にコメントしているのを見ました。たくさんの人の優しい気持ちを見ると、やはり「世の中捨てたものじゃないな」と思わずにはいられないのです。
<文/瀧戸詠未>