一方でこれまた悲しい夏の体験をしたFくんの物語をお送りしましょう。

写真はイメージです(以下同じ)
Fくんは高校生のとき、グランドソフトボールのチームに入っていたそうです。グランドソフトボールとは、視覚障害者がプレイする野球で、1チーム10人で行い、ピッチャーがハンドボールサイズのボールを転がして投げるのだとか。Fくんは完全に視力のない全盲の少年です。
「チームは全国大会まで勝ち進み、僕は張り切って試合に出ました。というのも、
小学生のころから好きだった女の子が見に来てくれると言うんです。そりゃいいところ見せたいですよね」
この記事の最初に「黒歴史」と書いてあるので結果は推して知るべしですが、試合3回になってようやくFくんの出番が来ました。高校まで未経験だったグランドソフトボールですが、バッティングだけは自信があったとのこと。何球目かで思いっきりバットを振り、ボールに当てました。Fくんは全速力で1塁めがけて走り始めます。
彼にとって出塁はイコール恋の成就とほぼ同義です。
ところが……。
「守備をしていたときからユニフォームのズボンが大きくて腰パン気味だなと思っていたんですが、
走り出した途端、ズボンは元気よく膝のあたりまでずり落ちました。
塁には早く出たい、でもズボンをなんとかしないと走れない上にパンツは丸出しです。モタモタとズボンを押さえながら走る僕の姿に、聞こえてきたのは歓声でなく爆笑でした」

そんな様子では当然出塁できず、アウトになってすごすごとベンチに戻ったそうですが、チームは順調に勝ち進み、なんと優勝。しかも気の毒なことに、Fくんの「試合中にパンツを丸出しにした罪」は重く、それ以降出場の機会はなかったとか。
好きだった女の子とは、その後どうなったでしょう? いちおう聞いてみます。
「数日後に『応援ありがとう』とメールを送りましたが、
『優勝おめでとう』も『かっこよかった』もなく『お疲れ様』のひと言だけでした。それ以来、彼女に連絡はしていません」
彼女が「パンツはチェックだったね!」くらい言えたら、また展開は違ったのかもしれませんが……まあティーンエイジャーには難しいかな。
教訓:服は、大きすぎても、小さすぎてもダメだ、という話。
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あの夏の黒歴史―
<イラスト・文/和久井香菜子>