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“夏の紅白” NHK『ライブ・エール』が示した、観客がいない紅白のメリット

不利な状況が、ミュージシャンの底力を引き出した

 最後に、音楽面でも発見がありました。それは、「あなたにスマイル」を歌ったMisia(42)と、バンドの演奏が素晴らしかったこと。
MISIA SOUL JAZZ BEST 2020

「あなたにスマイル」収録の『MISIA SOUL JAZZ BEST 2020』

 三密対策のため、通常の紅白よりは少なめの人員で、バンドメンバー同士も距離を取った形態にもかかわらず、楽器の音色の生っぽさをダイレクトに伝える力強さに変わっていた。不利な状況が、かえって歌手やミュージシャンの底力を引き出していることに、驚かされたのです。  4月にレディ・ガガ(34)の呼びかけで行われた「One World: Together at Home」(WHO=世界保健機構とGlobal Citizen主催)のライブでも感じたことですが、実力のあるミュージシャンは環境や音質を問わないという、当たり前の事実。これがコロナ禍によってあぶり出されているのも、面白い現象です。  今回のMisiaとバンドにも、従来型の紅白にはなかった、音楽全体としての充実がありました。演出を工夫するぜいたくが奪われてしまったからこそ、原点に立ち戻れたのだとすれば、不幸中の幸いと言えるのかもしれません。

年末も、この静かな紅白でいいのでは?

 年末の紅白本番がどのような形で行われるのかは、いまだ不透明な状況です。でも、コロナのせいで生じた不自由さが、余計なものを削ぎ落としているのではないか? ひょっとして、いいことづくめなんじゃないか?  そんな期待を抱かせる、『ライブ・エール』の、素晴らしい静けさなのでした。 <文/音楽批評・石黒隆之>
石黒隆之
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter: @TakayukiIshigu4
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