結婚、育児、仕事で壊れていく女性…共感の涙が止まらない!/映画『82年生まれ、キム・ジヨン』×峰なゆか
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結婚・出産で仕事を辞め、育児と家事に追われるなかで心が壊れていく主人公、キム・ジヨンの姿を通して、現代女性の生きづらさを描いた韓国のベストセラー小説『82年生まれ、キム・ジヨン』。韓国では130万部を突破し、日本でも社会現象を起こした注目作が、韓国映画界をけん引する人気俳優チョン・ユミとコン・ユの共演で映画化されます<10月9日(金)から新宿ピカデリーほかで全国公開>。
今回女子SPA!では、いち早く作品の魅力をお伝えすべく、アラサー女性の生き方を赤裸々に描いた『アラサーちゃん』の作者として知られる漫画家の峰なゆかさんに『82年生まれ、キム・ジヨン』の感想をインタビュー。そして、作品の見どころを漫画にしていただきました!

――峰さんはベストセラーとなった原作も発売当初に読んでいたそうですが、原作を読んだうえで映画をご覧になってみて、どんな感想でしたか?
峰:原作よりもキム・ジヨンの夫のキャラクターが丁寧に描かれていたのが印象的でした。夫のデヒョンが、わかりやすい悪役ではないというのがすごくよかったですね。亭主関白でもないし、モラハラ夫でもないし、DV夫でもない。家事にもそれなりに協力的。
でも、ジヨンがやっとの思いで探してきたカフェの仕事を「これが君の望む仕事か?」とあっさり全否定したり、「僕が育休とるよ。僕もこの機会に勉強や読書したいし!」と育児をナメくさった発言をしたり。悪気はないんだけど、女の大変さを全然わかってない。普通の男を普通に描いているからこその絶望がリアルでした。
――悪気もなく優しいからこそ、男性からは「優しくていい旦那じゃん」「どこが悪いの?」といった意見も出てきそうな気がします。
峰:この夫のダメさをわからない男性は、女性差別の構造をちゃんと理解できていないんだなって思ってしまいますね。女性同士で観に行って感想を言い合うのもいいけど、カップルで観に行くと踏み絵的な役割を果たしてくれるかも(笑)。
私は84年生まれなのでキム・ジヨンと同世代なんですけど、いまの女性って、もっとバリバリに女性差別をされていた上の世代よりはだいぶ生きやすいと思うんですよ。でも、マシかもしれないけどやっぱり電車に乗れば痴漢をされるし、入試でも就職でも差別はあるし、絶望は続いている。
「マシかもしれないけど絶望する」という何とも言えない地獄感が、優しくてバカな夫の存在に象徴されているように感じました。
――たしかに、ジヨンのように「女の子なんだから大人しくしてなさい!」と言われたり、痴漢被害に遭ったのに「スカートが短すぎる」と責められたりするのは、今もほとんどの女性が経験していますよね。
峰:私の場合、そういうことを日頃から言われ続けているうちに、物心ついたときには「女は性的な価値がないと存在している意味がない」という呪いに支配されていた気がします。呪いが強すぎたせいか、性的魅力だけで女の価値が判断されるAVの世界に足を踏み入れてしまったわけですが……。
多くの女性は、「ここに地雷(女性差別)があるから気をつけないと!」と注意しながら、進学して、就職して、結婚して、子供を産んで……と人生を歩んでいくと思うんですが、私の場合は、まず自分で地雷を踏みにいって爆発させて、挙句その様子をYouTubeで配信してカネを稼いでいるような生き方ですよね(笑)。
――あえて「地雷を踏みにいった」ことで見えたものってありますか?
峰:「女はいざとなったら脱げばラクに稼げるからいいよな」と言われがちなのは納得いかない!と思いました。セックスワークって、ハードな肉体労働だし、将来性もないし、周囲にバレた時のリスクもあるのに、いまは大して稼げもしない。同じ給料なら、男でサラリーマンやってたほうがラクに決まってるじゃないですか。
「女は脱げば稼げるからラク」っていうのは「男はいざとなればマグロ漁船乗ればラクに稼げていいよな~」と言うのと同じ理論なんですよ。ラクだと思うならおまえもいっぺん漁船に乗って『梨泰院クラス』の主人公みたいに稼いでこいよって(笑)。
――現在、峰さんは育児をしながら執筆を続けていますが、結婚、出産を通して、キム・ジヨンのように壁にぶつかったりはしましたか?
峰:そもそも、結婚すると無条件におめでとうと祝福されるのが気持ち悪い! 区役所に行って婚姻届という書類を出しただけなのに。私が区役所に行ってマイナンバーカードを申請したところで誰も「おめでとう!」なんて言ってくれなかったのに(笑)。
名字については、多くの取引先と仕事をしている私と、給与の振込主はひとつだけ、というサラリーマンの夫なら、夫が銀行口座の名義変更をするほうが面倒が少ないからという現実的な理由で夫が姓を変えることにしたんです。
でも、それに対して夫の父親が激高したのにはびっくりしましたね。「普通は女が姓を変えるものだ」「こんな屈辱的なことはない」って! 正直名字なんてどっちでもよかったんですけど、いまは「そんな発言をするヤツが存在してる限り、私は絶対名字は変えないぞ!」という気持ちになっています。
――キム・ジヨンは、仕事を辞めて育児に追われるなかで孤独感が強まり、心が壊れていってしまいますが、峰さんは、現在育児はどのように分担しているのでしょう?
峰:4月に出産してすぐに仕事復帰したので、いまは主に育休中の夫が子供の面倒を見ています。
それで気付いたんですけど、世の育児情報って、ほとんどすべて主体が「ママ」なんですよ。「ママの笑顔が一番」「母親は妊娠中から親としての自覚があるけど、父親は子供が生まれてはじめて親になる」「パパは新入社員」……。
これじゃあ主体的に育児をしようという男性もやる気がなくなりますよ。こういう腐った思想に毒されないよう、夫には蛍光ペンを渡して、育児雑誌の不適切な表現をチェックするようにしてもらっています(笑)。
――峰さんは、理不尽を感じたらきちんと怒ってきたわけですね。一方で、ジヨンのように声を上げられずにしんどくなってしまう女性も多いように思います。怒れずに溜めこんでしまう女性はどうしたらいいと思いますか?
峰:「怒り」って悪だとされているけど、喜怒哀楽のなかで最も生命力に溢れているし、変化に繋がる、尊い感情なんですよ。
映画でも、ジヨンのお母さんが怒りを露わにして泣き叫ぶ場面がありますが、物語を大きく進めて現状を変えていくのは、現実世界でも怒りの感情なんです。すぐに変わることは難しいと思うけど、「怒りは尊い」ということはもっと知ってほしいです。
峰:映画では、お母さんの怒りもきっかけとなって、男たちも少しずつ変化していきますよね。原作とは違って、絶望で終わらせずに、希望が描かれているのがすごくよかったです。でも、映画の中の希望に満足せず、観た人が改めて現実と向き合うきっかけになればいいなと思いました。
映画『82年生まれ、キム・ジヨン』は、キム・ジヨンという女性を通して、私たちひとりひとりの生きづらさ、絶望、そしてその先にある希望を描いた物語です。友人やパートナーと劇場に足を運んで、いまいちど自分の中にある「尊い怒り」と向き合ってみてはいかがでしょうか。
『82年生まれ、キム・ジヨン』
結婚・出産を機に仕事を辞め、育児と家事に追われるジヨン。常に誰かの母であり妻である彼女は、時に閉じ込められているような感覚に陥ることがあった。そんな彼女を夫のデヒョンは心配するが、本人は「ちょっと疲れているだけ」と深刻には受け止めない。しかし次第にジヨンは、他人が乗り移ったような言動を取りはじめ……。
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キム・ジヨンを追い詰めた社会に、峰なゆかがツッコミ!




カップルで観ると「踏み絵」になる映画
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「女は脱げば稼げるからラク」って言われるのは納得できん!
結婚すると無条件に祝福されるのが気持ち悪い

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© 2020 LOTTE ENTERTAINMENT All Rights Reserved. <取材・文/女子SPA!編集部 漫画/峰なゆか 写真/福本邦洋 提供/クロックワークス>あなたの体験を募集中!
峰なゆか
漫画家。アラサー世代の女性の恋愛観を冷静かつ的確に分析した作風が共感を呼び、各誌で活躍中。『アラサーちゃん 無修正』(全7巻)シリーズは累計70万部を突破。週刊SPA!で連載中の自伝的漫画『AV女優ちゃん』(既刊3巻、以下続刊)、破格の育児漫画『わが子ちゃん』『わが子ちゃん2』『わが子ちゃん3』が発売中。X:@minenayuka