この春、コロナ禍におけるステイホームで、彼女は在宅勤務となった。夫も週1日の出社。子どもが家の中を走り回り、ふたりとも仕事がはかどらない。夫は仕事用の会議室を借りたからと毎日、出かけるようになった。
「子どもを私に押しつけて出かけるなんて無責任だとなじると、夫は逆ギレして、『どうせ実家を頼るんだろう、オレなんていらないじゃないか』って。
夫が忙しいから頼らざるを得ないのに。もう、ニワトリと卵みたいな話になっちゃって、険悪な雰囲気になりました。だいたい最初からこんな場所に住みたくなかったとか、オレはカナコのおかあさんが苦手なんだとか、いろいろ言われて私もへこみましたね」
実家に頼らなければ生活できない。だが実家に頼れば頼るほど、夫の心が家庭から離れていく。カナコさんは、子どものこともほとんど母に相談し、夫には何も言ったことがないと気づいた。
「そりゃあ子育て経験のある母に言えば、ほとんどのことが解決できる。夫に言っても何も解決しません。でも話してもらえなかった夫は、自分が疎外されていると思っていたのかもしれません」
夏になって、カナコさんは週3日の出社、夫は毎日出社となったが、カナコさんは夫の様子がどこかおかしいことに気づいた。
「コロナ禍でさすがに出張は減っているはずなんですが、8月なんて以前と同じくらい出張だと言って帰ってこなかったんですよね。『どこに行くの』と聞くと、前によく出張に行っていた大阪だの福岡だのと言うんですが、なんとなくヘン。
そこで夫の会社に知り合いを装って電話してみたんです。そうしたら会社にいたんですよ。だけどその日、夫は帰ってこなかった。出張と偽ってどこかに泊まっているわけです」
さすがにその件は母にも相談できず、彼女は悶々(もんもん)としながら翌日の夜、夫を迎えた。
「夫は『疲れたー』と言って、子どもに福岡のおみやげとお菓子を渡していましたが、そんなものは東京でだって買える。深夜、夫に『本当はどこにいたの? 女の人がいるの?』と聞いたら、夫がぎくりとして固まって。図星だったんでしょうね。あげく、『飲んで酔ったから、ひとりでホテルに泊まっただけだよ』。
ホテルに泊まることを出張というの?と皮肉を言ったら、『おまえがかまってくれないから』と逆ギレ。思わず、『もうダメかもね、私たち』と言うしかありませんでした」