「愛」が分からず恋人を試してしまう女性、その生い立ちと胸の内
好きになればなるほど、愛をこじらせていく人がいる。相手をわざと試したり貶(おとし)めたりするのは、自分の気持ちに自信がないからかもしれない。
一概(いちがい)には言えないが、誰もがなんとなくふわりと「愛情」だと思っていることが愛だとは思えないというのだ。
「愛情って、特に恋愛って何なのか、私にはいまだにわからないんですよね」
サチコさん(38歳)はそう言う。小さなころは父親の事業が成功、乳母がいるような生活だった。
両親は何でも買ってくれたが、父は忙しくてあまり家にいなかった。今思えば、外に女性がいたのではないかと彼女は言う。母はそのイライラを娘であるサチコさんにぶつけて、いつも不機嫌だった。
「バブル崩壊の影響だったんでしょうか、私が10歳くらいのとき父の事業がうまくいかなくなって倒産、最後に両親が大げんかしていた記憶があります。その後、両親は離婚して、母と私は別の町の小さなアパートに引っ越しました。それまであったものがすべてなくなった」
母親は近所の居酒屋で働いていたが、常連の客と男女の仲になったのだろう、夜になると彼女は家から追い出されることもあった。今思えば、と彼女は前置きして、「母はそういう男たちからお金をもらっていたんじゃないかな」とつぶやいた。
ところが何があったのか、彼女が高校生のときに両親は復縁。しばらくするとまたケンカが勃発した。家がつまらないから帰りたくなくて夜の町を遊び歩き、補導されたこともあるという。
「こんな人たちとつきあっていたら、私の人生が台なしになる。そんな気がして高校卒業と同時に上京、親戚の援助もあって大学に入りました。アルバイトは水商売ばかりしていましたね」
若くして男女の機微もさまざま見てきた。そんな背景があるからこそ、彼女は恋愛にどっぷりとはまることができないのかもしれなかった。
「20代のころはものすごく恋愛に冷ややかでした。男女の関係なんて脆(もろ)いものだし、誰かを信じたってどうせ裏切られる。そう思ってた」
卒業後に就職した会社で、彼女は一生懸命に働いた。長くひとつのプロジェクトにかかわって、ものを生み出す楽しさも知った。人と協力することの重要性もだんだんわかっていった。
「私は仕事に育てられた。そんな気がしました。だから恋愛や結婚からは遠ざかってもいいと思っていた」
だが33歳のころ、仕事関係で知り合った人に突然、交際を申し込まれた。
「長く一緒に仕事はしてきたんですが、恋愛相手として意識したことがなかったので驚きました。でも彼は『あなたの魅力にあらがえなくて告白してしまった』って。そう言われればうれしい。だからつきあうことにしたんです」