ところが「愛情」に懐疑的で、長く続く恋愛を経験したことのない彼女は、どうやって恋愛を育んでいったらいいかわからなかった。
「彼は好きだと言ってくれるけど、私は信じられない。だから証明してほしいと思う。彼はどうすれば信用してくれるんだと言う。私のために何ができるか考えてと突っぱねたりしていました」
最初は夜中に電話をかけて「寂しい、会いたい」ということもしてみた。彼はいつでもすぐに駆けつけてくれた。彼の給料では買えないような高価なものをほしいとねだったときも、彼は分割払いで買ってくれた。
「だんだんエスカレートしていくんですよね。あるとき彼と夏休みを過ごそうと北海道に一緒に旅行したんです。ところが彼の仕事で思わぬハプニングがあって、彼は帰らざるを得なくなった。
『今日帰って仕事して、明日の朝いちばんでまた北海道に戻ってきて』と言ったんです。明日には帰京するのに。そうしたら彼、本当に来てくれたんですよ」
そのとき、この人なら信頼できる、もう試すのはやめようという思いがよぎった。それなのに彼女は、『私の言いなりになる男なんてつまらない』と彼に言ってしまったのだそうだ。そんなふうには思っていなかったのに。
「私はやはり愛情というものをまったくわかってない」

「さすがにその言葉は彼を傷つけたみたいで、それから彼の態度が少し変わって、私はそれを見てすごく焦(あせ)りました」
このまま見捨てられるかもしれない。10代のころのようにひとりぼっちになるかもしれない。そう思うと、いてもたってもいられず、彼の部屋に押しかけたこともある。
「つきあって3年ほどたったころ、彼が『オレ、もう疲れた』と言い出して。別れたくない、どうしても一緒にいたいと泣いて頼みましたが、彼は私への愛情がすり減っているって……」
一度こうなると、このあとは何をしても逆効果になる。相手の気持ちが冷めていくときは、どんなに心を入れ替えたと言っても信じてはもらえない。
「あんなに好きだと言っていたのに、ウソだったのとなじってしまいました。すると彼は、『きみは一度でも、僕の愛情に応えたことがある?』って。ああ、私はやはり愛情というものをまったくわかってないんだと落ち込みましたね。彼がしてくれたことすべてが愛情だったのかとそのとき初めて気づいたように思います。
たぶん、他の人が『これは彼の愛だ、こんなに私は愛されているんだ』と思うことを、私は愛情だと気づけなかった。彼がどんなに私の要求に応じてくれても、それが愛情からきていると思えなかった」