おそらく彼女は育った過程で「愛情を感じる」ことが極端に少なかったのだろう。親からも愛された実感をもたずに成長してしまった。
「もちろん世の中にそういう人はたくさんいると思う。だからといってみんなが恋愛できないわけでもないでしょう。そう思うと、私だけが人として失格なのではないかとまた自己嫌悪に陥っていくんです」
彼はそのまま静かに離れていった。もう一度彼に会いたい、今度はもっとうまく関係を築けるはず。一時期はそう思っていたが、その後、彼が結婚したことを知り、彼女はさらに気持ちが滅入っていると話す。

「一生、恋愛や結婚と無縁のまま生きていくしかないのかも」
仕事は変わらずがんばっている。職場での人間関係でトラブルを起こしたことはない。
「恋愛みたいなふたりきりの濃密な関係になると、どうしたらいいかわからないんですよね。その後、カウンセリングを受けて自分のことも少しはわかってきたんですが、それでもどうしたらいいかという前向きな感覚にはなれない。このまま私、一生、恋愛や結婚と無縁のまま生きていくしかないのかもしれない」
表情が暗くなった。
彼女には、いい女友だちがいるという。ところが相手が男性で、自分の中にも恋愛感情があると、急に「もっと愛して、もっと愛していることを証明して」という気持ちになってしまうのだそう。女友だちと接するときのようにフラットな気分ではいられない。
女友だちと同じようにもう少し気楽に好きな人と接することができればいいのに、と彼女はため息とともにつぶやいた。
<文/亀山早苗>
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