父親からのDVが、結衣さんの生きづらさに関係しているのだと、岩間さんは言いたげだった。
「結衣が平気で嘘をつく人間だというのを、僕は許すことができません。僕は被害者だし、そんなに立派な人間でもないので。ただ、
彼女がこの世界で生き延びるためには、嘘をついてでも他人を利用せざるをえなかった、とは思います。彼女は、自然体で他人を利用する。僕からも、前の夫からもDVを受けたと言う。言わざるをえなかった」

それでも、「元妻を擁護はしたくない、できるだけフェアな立ち位置で分析したい」と、岩間さんは注意深い。
「僕の酒癖がそんなに嫌なら、子供なんて作ろうとする必要はなかったと思うんですよ。夫婦仲も最悪でしたし。子供ができる前から、僕は結衣にとって決して良い夫ではありませんでした。なのに、彼女は子供を求めた」
なぜ?
「この世界で生き延びるために、必要なアイテムだったから」
岩間さんは、あえてトゲトゲしさを際立たせるように言った。「アイテム」と。
「結衣はいわゆる“家庭”を持ちたかったわけではないと思います。その点については、僕も同じですから、よくわかるんですよ。
僕も、おそらく結衣も、普通の家庭というもののロールモデルを見たことがないまま、大人になってしまったから」
「子供は親を選べない」の意味が見えてきた。
「こういうのは、僕らの代で断ち切らなきゃ。親の不具合に子供を巻き込んではいけないんです。僕にできるのは、養育費と学資の積み立てと人生のいくばくかの時間を、娘に割き続けることくらい。その作業を結衣と共同でやるつもりが、まったくないというだけで」
昼下がりに始まった取材だったが、いつの間にか夕方になっていた。コーヒーだけで何時間も話し続けてくれた岩間さんに、メニューにあった安いワインを勧めると、「大丈夫です」と手のひらをこちらに向けられた。
<文/稲田豊史 イラスト/大橋裕之 取材協力/バツイチ会>