Lifestyle

Vol.19-2 「DV・モラハラ夫に仕立てられた」離婚で親権を奪われた男性の後悔

生き延びるために、必要なアイテム

 父親からのDVが、結衣さんの生きづらさに関係しているのだと、岩間さんは言いたげだった。 「結衣が平気で嘘をつく人間だというのを、僕は許すことができません。僕は被害者だし、そんなに立派な人間でもないので。ただ、彼女がこの世界で生き延びるためには、嘘をついてでも他人を利用せざるをえなかった、とは思います。彼女は、自然体で他人を利用する。僕からも、前の夫からもDVを受けたと言う。言わざるをえなかった」  それでも、「元妻を擁護はしたくない、できるだけフェアな立ち位置で分析したい」と、岩間さんは注意深い。 「僕の酒癖がそんなに嫌なら、子供なんて作ろうとする必要はなかったと思うんですよ。夫婦仲も最悪でしたし。子供ができる前から、僕は結衣にとって決して良い夫ではありませんでした。なのに、彼女は子供を求めた」  なぜ? 「この世界で生き延びるために、必要なアイテムだったから」  岩間さんは、あえてトゲトゲしさを際立たせるように言った。「アイテム」と。

普通の家庭を知らずに大人になった2人

「結衣はいわゆる“家庭”を持ちたかったわけではないと思います。その点については、僕も同じですから、よくわかるんですよ。僕も、おそらく結衣も、普通の家庭というもののロールモデルを見たことがないまま、大人になってしまったから」  「子供は親を選べない」の意味が見えてきた。 「こういうのは、僕らの代で断ち切らなきゃ。親の不具合に子供を巻き込んではいけないんです。僕にできるのは、養育費と学資の積み立てと人生のいくばくかの時間を、娘に割き続けることくらい。その作業を結衣と共同でやるつもりが、まったくないというだけで」  昼下がりに始まった取材だったが、いつの間にか夕方になっていた。コーヒーだけで何時間も話し続けてくれた岩間さんに、メニューにあった安いワインを勧めると、「大丈夫です」と手のひらをこちらに向けられた。 <文/稲田豊史 イラスト/大橋裕之 取材協力/バツイチ会>
稲田豊史
編集者/ライター。1974年生まれ。映画配給会社、出版社を経て2013年よりフリーランス。著書に『映画を早送りで観る人たち』(光文社新書)、『オトメゴコロスタディーズ』(サイゾー)『ぼくたちの離婚』(角川新書)、コミック『ぼくたちの離婚1~2』(漫画:雨群、集英社)(漫画:雨群、集英社)、『ドラがたり のび太系男子と藤子・F・不二雄の時代』(PLANETS)、『セーラームーン世代の社会論』(すばる舎リンケージ)がある。【WEB】inadatoyoshi.com 【Twitter】@Yutaka_Kasuga
1
2
3
4
5
Cxense Recommend widget
あなたにおすすめ