「あのさ、言っていい?」
「え?」

「
きみ、昼とかよくマツキヨでメイクしてるよね。あの、うちの会社の近所の」
「…!」
「俺ね、昼飯食った後、毎日あそこでお茶とか買って会社戻るのね。そしたらさ、君がいつもマツキヨ入って来てさ。『あ、梶さんだ、買い物かな?』って思って見てたら、一直線に化粧品のとこ行って熱心に化粧してるじゃん」
「…!!!!!!」
「んで、さっきなんか、
君ってドラッグストアの化粧品しか使わないくせに、いかにも『デパコスしか使いません』って口ぶりで話してたろ。もう、俺おかしくておかしくて(笑)今日は面白かったわー。誘ってよかった。じゃ、また明日ね! 気をつけて帰ってね。それじゃ、俺の駅、あっちだから!」
この時、ゆかりさんの顔が真っ赤だったのは、お酒のせいばかりではありません…。当然ながら、中村さんへの思いはその瞬間に消えました。
「思い出してもムカつく! あんなデリカシーないやつはこっちから願い下げだわ!」
この一件があってから、ゆかりさんは、コスメにもちょっとお金を使うようになりました。
「やっぱ高いものは、発色やつけ心地が違うわ~。せめてファンデーションだけはデパコスにしよっと」
心も体も綺麗にしていれば、きっと、いいご縁があるはず。ゆかりさんの春はこれからです。
―
赤っ恥をかいた話―
<文/榊原瑠美 イラスト/
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