
真澄さんと彼のやりとり
恋人との関係にヒビが入ったのは、9月に入った頃のことでした。
「バスでお財布をスられてしまった。来週法事のために実家に行く予定だったんだけど……」
真澄さんは恋人からのLINEに、動揺します。彼が困っているならと、何の疑問ももたずにこう返します。
「いくら必要なの?」
結婚できるかもしれない相手のピンチは、真澄さんにとっては「いざというとき」だと思えたのです。LINEをもらった数日後、給付金をそっくりそのまま10万円、彼に渡しました。
恋心を利用されて、今も相手を責めきることができない彼女
少しずつ弁済する約束をして、彼は青森にあるという実家へ帰省していきました。
しかし、彼との連絡はそこで途絶えてしまったのです。携帯電話は不通になり、住んでいた場所も引き払われたあとに「やられた」と気づきました。
真澄さんはそのときのことを振り返ると、悔しさと情けなさ、その中にほんの少し「それでも彼が幸せでいてくれれば」という気持ちがあるそうです。
「最初からだますつもりだったのか、結果的にだまして逃げることになってしまったのかは、分からないです。もうどっちでもいいし」
どういう意図があったのかより、「自分が負った損害さえ戻ってくれればいい、それ以上は何も望まない」と肩を落とします。
いわゆるお金目当ての“ロマンス詐欺”とは言いきれないため、真澄さんは警察には相談していないそう。交際期間が長かったため「彼の気持ちに嘘がなかったと信じたい」といいます。
被害に遭ってもなお自分の恋心に「間違っていなかった」と言い聞かせる彼女の姿に、恋愛感情を利用したトラブルの難しさを感じました。自分の気持ちを誰かに利用されないようにするのは難しいです。せめて納得して行動できるようになりたいですね。
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<取材・文/いなばしの>
いなばしの
2015年からティーンズラブ小説家・シナリオライターとして活動。女性向けボイスドラマCDの脚本執筆、地下アイドルの歌詞提供なども行う。Twitter:
@Yinabashino