――本書の中で、子どもを欲しがる人々が語る“理由”を、本能型、好奇心型、規範遵守型、そして現実逃避型の4つに分類していたのが興味深かったです。
吉川「人間を型に分けるのは若干抵抗があったんですけどね。
子どもが欲しいっていう人たちは、欲しいと思ったら欲しいでよくて、それ以上の説明は求められない感じがありますよね。世間的にいいこととされているから、本人もそこまで突き詰めて考えなくても済むようなところがあると思うんです。例えばざっくり『えー、子ども可愛いじゃーん、欲しいじゃーん』でも周りが納得するというか」
――それに対して「欲しくない人」たちが語る理由の方が理屈が通っている、というのにも、なるほど! と思いました。
吉川「
欲しくない人は、やっぱり『なぜ欲しくないのか』を説明しなきゃいけないことが多いんです。なんでも同じ構図ですね。マイノリティなほうが説明を要求されるから、そのことについて突き詰めて考えて発信することになっている。だから答えが明確なんです。その構造の違いなのかなと思いますね」
――少子化対策もあってか「子どもを産むことは素晴らしい」という空気が世にはありますが、それを“圧”だと感じて思い悩む女性も多いようです。中にはその空気が、妊活や婚活の動機や理由になっている人も。この呪縛から逃れることはできないのでしょうか。
吉川「結婚すべきとかしたほうがいいとかは私自身あまり思わないのですが、
『どうして結婚したいのか』を考えた時に、案外、自分の欲望じゃなくて他者の欲望である場合もあるんじゃないかと思うんですね。
ここ数日、女性誌の歴史を遡(さかのぼ)る本を読んでいてハッとしたんですが、なんであんなに一時期ブランドバックが欲しかったんだろうと思ったら、それって実は他者の欲望をそのまま自分の欲望だと勘違いしていたんじゃないかということに気がついたんです」
――「結婚して子ども産まなきゃ」って気持ちがどこから来ているのか、突き詰めて考えるとよくわからなくなりますね。
吉川「結婚についても、私の場合はですが、他者の欲望をトレースしてるだけなんじゃないかという気がどうしてもするんですよね。一緒に生きていく誰かが欲しいという気持ちは自然なことだと思うのですが、そこでラブにばかりこだわるのはすごく危険だなーと思うんです。
婚活している女性の中には、ロマンティック・ラブ・イデオロギー(※)に縛られているというか、相手のことを好きになれなくて悩む人もいて。そこにラブ必要? と思っちゃうんですよ。
結婚にラブが必要になったのはここ50年くらいじゃないですか。それに縛られすぎているから苦しめられてるんじゃないかな、というのはすごく思っていて」
※ロマンティック・ラブ・イデオロギー:「恋愛して結婚して子どもを産んで育てるのが、素敵なことで当たり前のこと」という、恋愛と性愛と生殖が結婚を媒介して一体化された社会通念のこと。日本では1960年代以降に浸透したとされる。