生々しくリアルで、私の人生にもありえるかもしれない

『偶然と想像』より
親友がうれしげにノロケる運命の人が自分の元カレだとわかってしまった読者モデル、セフレにそそのかされ文学賞を受賞した大学教授へ色仕掛けを試みる人妻の大学生、十数年ぶりに戻った故郷でかつての同級生とおぼしき相手と運命的に再会する女性。
「偶然」を主題に展開される3つの物語は、会話の応酬の中で生まれた気づきによって、それぞれの運命が変わってゆくさまを描いている。
ちょっと変わった設定にもかかわらず、登場人物たちに訪れた偶然は私の人生にもありえるかもしれない、と思ってしまうほど生々しくリアルで俳優陣それぞれの人となりが透けて見えるよう。
劇中の大半を占める会話の中で扱われる言葉はユーモラスかつ自然でありながらハッとさせられる瞬間もあって、シニカルさにくすりと笑えたり、温かかったり、痛かったり。でもそんなふうに言葉を尽くして他者と何とか歩み寄ろうとし、本音を打ち明ける過程で己の形を知っていく姿にしみじみと共感し癒やされた。

『偶然と想像』より
人生なんてきっと、偶然の出会いをお互いの想像によって運命に仕立て上げたり、偶然という言葉で割り切ってみせたり、そういうあやふやなものにすぎない。この自分、この体に生まれたことだって偶然で、そこに意味なんてあるもんか。
でも時折、救われるような最高の出会い=偶然があるから、私たちは生きることに絶望せずにいられるのだろう。
私の好きとあなたの好きはちょっと意味が違うかもしれない。あなたと私が今ここで同じ場所にいることも、偶然に違いない。それでもこの会話を私は尊く思うよ。
『
偶然と想像』
監督・脚本/濱口竜介 出演/古川琴音、中島歩、玄理、渋川清彦、森郁月 甲斐翔真、占部房子、河井青葉 ©2021 NEOPA/fictive
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<文/宇垣美里>
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’91年、兵庫県生まれ。同志社大学を卒業後、’14年にTBSに入社しアナウンサーとして活躍。’19年3月に退社した後はオスカープロモーションに所属し、テレビやCM出演のほか、執筆業も行うなど幅広く活躍している。