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“飲む中絶薬”がやっと日本にも?780円の薬なのに「10万円に」と言う医師の利権

 日本でどのぐらい人工妊娠中絶が行われているか知っていますか? 2020年は年間14万5340件(厚生労働省統計)です。  1955年に比べると約8分の1に激減しているのは喜ばしいことですが、一人ひとりの心身の負担は変わりません。中には、経済的に育てられないとか、性暴力で妊娠したなどで、泣く泣く中絶する人もいるでしょう。
公園のベンチに座るに妊婦

画像はイメージです(以下同)

 実は、世界80ケ国以上で、「経口中絶薬」つまり飲み薬での中絶が認められています。なのに、日本はいまだに外科的な中絶手術だけ。その日本で、2021年に初めて、経口中絶薬の承認を求める申請が出されたのです。  ところが、承認に反対する勢力もあって、議論が起きています。一体なぜなのか? 中絶問題をずっと取材・研究してきて『中絶技術とリプロダクティヴ・ライツ』などの著書がある塚原久美さんに、解説してもらいました(以下、塚原さんの寄稿)。  

780円の中絶薬を「10万円に」と発言した医師団体

 2021年12月22日、ラインファーマ社によって日本で初めて経口中絶薬の承認を求める申請が行われました。今回申請された経口中絶薬は、手術することなく妊娠9週までの人工流産を誘発するものです。  この薬は2005年には世界保健機関(WHO)の必須医薬品リスト入りを果たし、2019年には必須中の必須とされる必須医薬品中核リストにも入った安全性と有効性が抜群に高く、取り扱いが簡単で、卸値で世界平均780円程度と手ごろな価格の非常に優れた薬です。  ところがこの薬に関して、「日本産婦人科医会(以下、「医会」と省略します)」は、NHKの取材などに対して「処方は当面、入院が可能な医療機関で、中絶を行う資格のある医師だけが行うべき」だとしています。医会とは、日本で唯一合法的な中絶を行える「母体保護法指定医師」の職業団体です。  医会の木下勝之会長は、「医師は薬を処方するだけでなく、排出されなかった場合の外科的手術など、その後の管理も行うので相応の管理料が必要だ」とも述べ、薬の処方にかかる費用を従来の手術と同等の10万円程度に設定するのが望ましいとの考えも示しました(2021.12.22、NHK)。

日本の中絶費用は10〜20万円、英仏などは実質無料

 一般に日本では妊娠12週未満の初期の中絶でも10~20万円かかることが多いと言われています。これは海外と比べるとかなり高く、しかも性暴力による妊娠や病気の場合など以外は保険がきかないため全額自己負担です。  イギリスやフランスなど先進国の多くでは、中絶は保険適用されるため実質無料で受けられます。日本同様に中絶に基本的に保険のきかないオーストリアの中絶料金は4万円弱くらいからで、日本よりはるかに安い設定になっています。
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危険な「ソウハ法」がまだ使われている
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