意外と軽視されがちなのは、“褒める”という行為だと思います。子どもは成長するに従って、食事面でできるようになることがどんどん増えていきます。例えば、「いただきます」が言えるようになる。お箸を使えるようになる。こぼさずに食べられるようになるなど、毎日刻々と成長を遂げています。
もしかすると苦手な食べ物を克服しようとチャレンジして失敗してしまった、なんていう子どももいるかもしれません。でもこれを残念と感じるのではなく、チャレンジした頑張りをしっかり称えてあげることこそが大事だと思います。
「○○はだめ!」「また失敗しちゃったね!」という言葉を投げかけるのではなく、できたことに対してポジティブな感情で満たしてあげることは、結果として食事が楽しい時間となり、食に対する知的好奇心も芽生えるはずです。
もちろん親の知識や食習慣が完璧でなくてもよいと思います。一緒に栄養のことを調べたり、チャレンジしてみたりする経験が積み重なれば、栄養失調に陥ったり、共同生活に支障をきたす食習慣にはならないのではないかと思います。

落合博満・著『戦士の食卓』(岩波書店)
ある分野において一流を極めた著名人が、実は偏食だったという事例を耳にすることが多くなりました。例えば、野球では、落合博満やイチロー。サッカーでは、中田英寿。体操の内村航平。ウサインボルトやタイガーウッズがマクドナルド好きだったなんていうエピソードも聞こえてきます。これらの事例から学ぶべき視点とはいったい何なのでしょうか? 私なりに考えてみると……。
偏食を無理に改善しようとすることは、本人や家族にストレスを与えてしまうことにつながります。つまりその子が持つ才能・意欲に悪影響を与えてしまうかもしれない、一喜一憂し過ぎてはならない、という示唆をいただいたように思います。
もっと大らかに構えるのもアリ。今や栄養バランスはサプリメントやスナックでも補える時代。すべての栄養を必ずしも3回の食事だけで満たす必要もなくなっていることは事実ですから、食事内容を考える大人にも柔軟性や寛容さは重要です。
間違えてはならないのは、上に紹介したトップアスリートは、偏食だから成功したわけではないということ。子どもの一時的な食傾向を才能開花の足かせにしなかったことに成功の要因が潜んでいると、私は考察しています。
まずは、「偏食は悪。治すべき」という慣習を冷静に疑ってみるのはいかがでしょうか? 親の根本的な思考を変えてみることで、子どもだけでなく親のネガティブ感情も軽減して、ブレイクスルーが見つかるように思います。
<文・撮影/食文化研究家 スギアカツキ>