
ミニカップ クラシック洋菓子『ナポレオンパイ~苺とカスタードのパイ~』の断面の様子。アイスクリームが想像以上に軽やかで驚きます
――クラシック洋菓子シリーズ、すごくおいしかったです。口当たりと後味が軽く、ハーゲンダッツ=とにかく濃厚のイメージが強かった私としては驚きました。現場としてもっともこだわったのはどんなことでしょうか?
山脇さん:ご指摘の通り、「コクがありながらも軽めの口当たりに仕上げた」という点なんです。『ナポレオンパイ~苺とカスタードのパイ~』を構成するカスタードアイスクリームは、卵の使用量を控えつつ、クリームと発酵バターを合わせることで、絶妙なバランスと本格感を出しています。『レーズンバターサンド』はミニカップの「ラムレーズン」とは全く別に開発したもので、発酵バターとバタースカッチのバランスにこだわり、 砂糖の量を控えています。

ミニカップ クラシック洋菓子『レーズンバターサンド』は、濃厚ながらも甘すぎないのが印象的
――パイやクッキー部分もゼロから開発したのですか?
山脇さん:2021年3月に発売された「ミニカップ Decorations(デコレーションズ)シリーズ」で培った技術を応用しているので、過去の資産を生かしていることにもなるでしょう。わかりやすいところで言えば、クッキー部分はまさにそうですね。
――成功体験を糧にしているんですね。開発の中で、失敗したりすることはないんですか?
山脇さん:もちろんありますよ。フレーバー自体も数えきれないほど試作を検証して決めていますし、このような新作で過去にヒットしなかったフレーバーからは大きな教訓を得ているように思います。
――いまいち売れなかったフレーバーってあるんですか!?
山脇さん:ありますよ(笑)。ミニカップ「チャイ」(2005年2月発売)は、ブームの先取りをしすぎたことを反省材料にしていますし、ミニカップ「レモンジンジャーフロート(2014年5月)」はすっきり感が強く、お客様がハーゲンダッツに求めているモノとのギャップに気づかされました。

「クラシック洋菓子」というシリーズ名は、社内でも別意見があったそうです
――他に苦労はありましたか?
山脇さん:ネーミングは最後まで悩ましかったです。実は私の上司にあたる人間が、「浪漫亭」という名前を提案してきたのですが、絶対に違うなと思いました(笑)。上司であっても素直に発言できる社風なので、「クラシック洋菓子」を推し続けました。
――ハーゲンダッツって、そこまで努力しなくてもブランド力が強いので大丈夫だとイメージされやすいですが、今日のお話を聞いて覆りました。以前、主要メーカーの「バニラ」の食べ比べをしたことがありますが、ハーゲンダッツが一番軽やかで香り高かったんです。イメージと違って意外な印象でした。そこに関連して御社のアイスクリームへのこだわりを一つだけ教えてください。
山脇さん:ハーゲンダッツ ジャパンが究極的にこだわっているのは、「ミルク選び」です。濃厚でクリーミーであることはもちろんのこと、土壌や餌、トレーサビリティなどの点から、北海道根釧地区の牛乳を厳選しています。
アイスクリームって不健康だと思っている方も稀にいらっしゃいますが、ハーゲンダッツのアイスクリームは品質にこだわった原料を使って製造されていますし、お客様には安心しておいしく味わっていただけるよう、さまざまな観点で日々努力をしています。これからも新作を楽しみにしてもらえたら嬉しいです。

北海道・根釧地区の牧場
アイスクリームは冷たい食べ物なのに、開発者の人柄も姿勢も温かく熱くて、驚きました。今回の取材を通してアイスクリームへの好奇心が高まったことは間違いありません。
<取材・文・撮影/食文化研究家 スギアカツキ>