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BLを誰も否定しない“優しい世界”…。58歳差の友情を描く『メタモルフォーゼの縁側』

 6月17日より鶴谷香央理の同名マンガを映画化した『メタモルフォーゼの縁側』が公開されている。
©2022「メタモルフォーゼの縁側」製作委員会

©2022「メタモルフォーゼの縁側」製作委員会

 最初に申し上げておくと、筆者個人の2022年の映画ベスト1は本作である(執筆時点)。生涯に渡って大切にしたい、すべての「大好きなものがある人」への祝福に溢れた大傑作だった。  キャストのファンや、題材となるボーイズラブ(BL)が好きな人はもちろん、予備知識も全く必要としない万人向けの作品でもあるので、ぜひ多くの人に観ていただきたい。さらなる魅力を記していこう。

年の差58歳の友情の物語

 17歳の女子高生・うらら(芦田愛菜)のアルバイト先の本屋に、夫に先立たれ孤独に暮らす75歳の老婦人・雪(宮本信子)がやってくる。美しい表紙に惹かれてBLマンガを手に取った雪と、もともとBL好きのうららはいつしか意気投合し、家の縁側で一緒にマンガを読んでは語り合うようになっていく。  端的に言えば「BLがつないだ、17歳の女子高生と、75歳の老婦人の友情の物語」である。その年の差はなんと58歳、立場もまったく異なるのだが、BLが彼女たちを引き合わせ、初めはちょっとギクシャクしていたけど、しだいにBLを楽しく語り合うようになっていく。まずは、「しだいに仲良くなっていく過程」をニヤニヤしながら楽しめる内容なのだ。

芦田愛菜が完璧に体現したオタクの「あっ」

 主人公の女子高生は、周りの“キラキラした”雰囲気になじめておらず、普段はBLが好きなことをひた隠しにしていて、幼なじみの男の子がクラスのマドンナと付き合っていることに複雑な感情を抱いたりもする、いわば非リア充だ。  その非リア充かつ隠れオタクぶりを見事に体現した芦田愛菜が実に素晴らしい。初めは老婦人に怪訝な態度でいて、うまくしゃべることもできず、挙動不審ぶりを見せまくるが、いざ大好きなBLマンガを貸すとなると、おすすめしたい作品がありすぎて、1つ1つを紹介する直前に「あっ」「あっ」と言いまくる。その「あっ」の「しゃべりたいことがありすぎて条件反射で一呼吸おいてしまうオタクだ……!」というリアルさに感嘆するしかなかった。  また、主人公がとても思慮深く生真面目で、だからこそ「考えすぎてしまう」様も芦田愛菜は完璧なまでに体現していた。嫉妬の感情に支配されたり、情けなさと悔しさが涙と共に溢れ出る様、そのときの芦田愛菜の熱演そのものに、大きな感動があった。
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宮本信子と高橋恭平も最良のキャスティング
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