緊張感からふたりとも押し黙ったままだった。彼の実家が山陰地方なので、とりあえずそこまで行くつもりだった。

「神奈川のサービスエリアで休憩をとったんですが、なぜかふたりともそのまま車の中で寝てしまったんですね。ふと目覚めたら夜が白々と明けてきていて。あ、今日は子どもの授業参観だったと思い出して。急に現実に引き戻された。そして運転席で寝ている彼を見て、『この人、誰だっけ』みたいな気持ちになった。
あわてて彼を起こして『ごめん、帰るわ』と。彼も『うん』って。間抜けな道行きですよね」
どうしてそういうことになったのか、今もよくわからない。あの夜の自分の気持ちは、一生かかっても思い出せないだろうと彼女は言う。
彼に送ってもらってそうっと玄関を開けると、夫がキッチンで朝食を作っていた。
「ごめん、ちょっとコンビニに行ってたと言うと、コンビニで寝てたんじゃないのと夫に言われ、出て行ったことも知っていたのかもしれないと思いました。それでも夫は何も言わなかった」
その後、彼は妻に不倫などしていないと言い張ってなんとか離婚を免れたらしい。彼女はそれきり彼には会っていない。2年間の濃密な関係は、別れて1年以上たった今、急に色鮮やかによみがえってくることがある。
「婚外恋愛はそれぞれ、私の血肉になっている気がします。もちろん批判されるのはわかっている。でも本気で愛した人がいるのはいい思い出だし、私のエネルギー源でもあると思っています。もっといい男に出会いたい、もっと濃厚な恋をしたい。そんな思いは心の中から消えていないような気がします」
恋を探して歩いているわけではない。それでも気になる人が現れ、何かに突き動かされるように行動してしまうアキノさん。それ以降も夫との関係は変わらず、家庭はうまくいっているという。
「私、自分の恋愛については女友だちにも話していません。誰かに話すと恋が薄くなってしまうから」
だからたとえ傷ついてもすべてひとりで引き受ける覚悟はできている。曖昧な気持ちで恋愛しているわけじゃないんで、と言ったとき、彼女の目が妖しく光った。
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<文/亀山早苗>
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