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草刈民代、ウクライナ・キエフのバレエ団を支援。チャリティー公演で感じた“信念”とは

 2022年7月5日、東京・世田谷区の昭和女子大学人見記念講堂で「キエフ・バレエ支援チャリティー BALLET GALA in TOKYO」公演が大成功をおさめた。日本バレエ界で、ウクライナへの支援が実現したのである。
※株式会社キョードーメディアス  リリースより

株式会社キョードーメディアス リリースより

 本公演には約1800名が無料招待され、来場者に5000円以上の寄付が募られた。全額がキエフ・バレエに寄付され、芸術活動に使用されることになる。また、公演は期間限定で有料配信もされ、その売上もすべて寄付するという。  芸術監督である草刈民代さんが選りすぐった世界的トップダンサーによる一夜は、まさに芸術が国境を越える瞬間だったように思う。その瞬間を客席でキャッチした筆者・加賀谷健が、本公演に込めた草刈さんの思いを探る。

行動の人・草刈民代

 草刈民代さんの自伝的エッセー『バレエ漬け』の中にこんな一節をみつけた。 「踊りたいという衝動は、言葉に変えられるようなものではなく、もっと感覚的な、本能のようなものではないだろうか」  草刈さんが今回、キエフ・バレエ団を支援するためのチャリティー公演を行なったことにも、同様に“本能のようなもの”を感じた。ロシア軍によるウクライナ侵攻作戦が開始されたのが今年2月。すでに5ヶ月が経過している。戦況が日々激化する中、本公演にこぎ着けてしまうその行動力は、首都キーウ(キエフ)で孤立する同胞ダンサーを支援するための揺るぎない“言葉”に換言できる。  つまり、その行動力自体が、“本能のようなもの”。行動の人である草刈さんが、長いバレエ人生を通じて、なおも思考(志向)し続けたことは、筆者にはとても計り知れない。

“思い出のジゼル”の可憐な美しさ

 ここに『草刈民代 最後の“ジゼル”』のDVDがある。古典バレエの踊り手から引退する瞬間が克明に記録されたこの作品。筆者にとってはご自宅で御本人からいただいた貴重な一品である。撮影を担当したのは、日本映画界を代表する周防正行監督。『Shall we ダンス?』(1996年)をきっかけに人生のパートナーとなった草刈さんの夫である。  もったいなくて開封できていなかったこのDVDが、6年以上を経て今、本稿執筆途中に開封の儀を済ませることができたのも、なにか深いご縁を感じずにはいられない。そんな“思い出のジゼル”。1841年にパリ・オペラ座で初演された「ロマンティック・バレエ」を代表する名作中の名作で、今回のチャリティー公演でも、注目の演目だった。上演されたのは、第2幕から「アダージョ」。可憐な町娘だった第1幕から一転、亡霊となったジゼルを演じるのは、ヒューストン・バレエのプリンシパル・加治屋百合子。  この「アダージョ」では、現実離れしていながらリアリティあるジゼルの美しさが際立つ。彼女がポワント(トウシューズ)で立ち上がる瞬間、ハープの音色とともに非現実が現実を侵食する夢うつつの感覚。うっすら肌寒くもある。それだけに美しい。ジゼルの可憐さ、慎ましさ、奥ゆかしさが、あの爪先立ちに込められているのだ。
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異国との距離を踏破する公演
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