この日、仕事部屋にしまってある従業員の履歴書から男性のものをひっぱり出した明美さんは、彼が年下の30歳であること、独身であることを知ります。

「住所はアパートで、たぶんひとり暮らしかなと思ったけど、彼女がいる可能性もあって。
同情で声をかけてくれたんだって自分に言い聞かせて、次の日も私から何か言うみたいなことはしなかったですね」
自宅で経理の仕事をする明美さんは、荷物の受け取りなど用事があれば会社に行くけれど彼と顔を合わせるのは一瞬しかなく、また彼が作業に出ていれば姿を見ることもないので、気にはかけながらもゆっくり話す時間は訪れずにいました。
積極的だったのは彼のほうで、明美さんの自宅に保管する資材や道具を持ってくる役をあえて引き受けているようで、
それからひとりで家までやってくることが増えたそうです。
イヤホンが鳴り、カメラ越しに彼が立っているのが見えるたび、明美さんの心は「
恥ずかしいけれど久しぶりにドキドキするのが止められなかった」と高揚を抑えきれずにいました。
「忙しいときにガタガタとすみません」と礼儀正しく声をかける彼に、はじめこそ遠慮がちに頷いていた明美さんでしたが、仕事の状況などを話すうちにいつしかプライベートなことまで打ち明けあうようになります。

自分しかいない自宅のリビングに彼を通すのはさすがにどうかと思い、玄関の上がり口に座ってアイスコーヒーを出し、彼のそれまでいた会社のことやひとり暮らしで彼女とは3ヶ月前に別れたことなどを知っていきました。
「
俺も、社長にはいつも怒られるんですけどね。たまに自分が間違えたくせに理不尽なことを言ってくることがあって、ムカつくけど仕方ないですよね。それで、奥さんのことが他人事とは思えなくて。ひどいですよね、自分の身内にかける言葉じゃないですよ」
淀(よど)みなく自分への気遣いを口にする彼は、夫とは違う自信があるように見えたそうです。
明美さんも、夫の態度に苦しんでいることや、離婚は考えるけれどだいそれたことで言い出せない悩みなど、ぽつぽつと彼に話します。
それを一つひとつ真面目な顔で聞いてくれる彼に、明美さんはどんどん惹かれていきました。
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