“日の下に新しきものなし”(旧約聖書)との格言を持ち出すまでもなく、ソングライティングは無数の模倣(もほう)と借用を経て、質を高めてきました。米津玄師とつんく♂のエピソードを聞いて思い出したのが、ジミー・ウェッブ(注1)とハリー・ニルソン(注2)の関係です。
ニルソンが「Gotta Get Up」という曲を作る際、ウェッブの「Up Up and Away」のフレーズを使ってもいいかたずねたというのです。まさに米津とつんく♂の間にあるミュージシャンシップと同じですよね。そしてニルソンも米津と同様に、借用したフレーズに新たな息吹を吹き込んだわけです。
歌詞ではありませんが、「渚にまつわるエトセトラ」(PUFFY 作詞・井上陽水 作曲・奥田民生)と「さよなら夏の日」(作詞・作曲 山下達郎)の間にも無言のリスペクトがあることに気づきます。
「さよなら夏の日」のイントロが、<リズムがはじけて恋するモード>というファンシーな言葉によって生まれ変わっている。使うのに気が引けるほどの大ネタも、彼の手にかかるとあっけらかんとしたものです。
また、奥田民生は<立派な人達は立派な人達だ>(「人の息子」)という歌詞を、大胆にも川端康成の『伊豆の踊り子』から引用しています。
いずれも大胆不敵な姿勢で先人へのリスペクトを示している点で、特筆すべき存在です。