
©上田映劇
──先ほど「映画館では誰からも特別扱いされない、指導もされない。ただそこに居るということができる、気が楽になる場所」というお話もありましたが、“生徒”や“子ども”そして“保護者”などの役割から離れられる場所を、誰しもが必要としているのかもしれませんね。
そう思います。学校に行きづらいといった悩みを抱えた子どもたちが、上田映劇にいらっしゃるお客さんとなんでもないお話をする中で気持ちに変化が現れていくといった光景を目にすると、何者でもない自分でいられる場所の重要性について改めて気づかされます。子どもにとっても、先生や親、支援者が相手だとしづらい話もあるようで、知らない人と話す中で今まで誰にも言ってこなかったことがポロッと出てきたりして、結果的に問題解決に繋がっていったケースはすごく多いですね。
また「何者でもない自分でいられる場所」は、大人も必要とするものだと思います。「うえだ子どもシネマクラブ」上映会には保護者の方も多くいらっしゃるのですが、そのほとんどがお母さんです。そんななか印象的なのは、映画を観ることで解放されていくお母さんたちの姿ですね。
引きこもりや学校へ行けない子どもの家庭は、特にお母さんが苦しんでいるパターンがほとんどで、お母さんが解放されると子どもたちも安心したりいきいきしていくように思います。そういった意味でも、「うえだ子どもシネマクラブ」という名前ではありつつ、保護者の存在も重要視しながら活動しています。
──家庭に安心できる居場所がないという声は、特に女性から多く上がっています。男女共同参画局によると、コロナ禍ではDV(配偶者暴力)や交際者などによる性犯罪・性暴力に関する相談件数が増加傾向にあるそうです。
そうなんです。生活困難者の支援を行う長野県のNPO団体「場作りネット」にも、特にコロナ禍以降、困りごとを抱えた女性の数が増えたことで、生活相談や自殺対策のホットライン窓口への問い合わせが急増しました。
そういった状況下で「窓口だけでなく、実際に逃げこめる場所が必要なのではないか」という声が上がったことで、2020年12月に女性が1泊500円で宿泊できるゲストハウス「やどかりハウス」が、上田映劇からすぐ近くの場所にオープンしました。こちらのゲストハウスは、劇場、イベントスペース、カフェ、ゲストハウスを備えた上田市の民間文化施設「犀の角」を活用し運営されています。
DVや家族関係で辛い思いをしている女性や若者の利用が多いのですが、安心できる宿がほしい人やひとりになりたい人が、“気軽に家出ができる”ような宿泊施設となっています。そこには相談員も随時待機しているので、それぞれの必要に応じて支援機関へ繋ぐ取り組みも行なっています。
「うえだ子どもシネマクラブ」の子どもたちにとっての映画館、また「やどかりハウス」のように、それぞれが日常から離れて気楽になることができるような場所の選択肢が、今後全国にもっと開かれていくといいですね。
<取材・文/菅原史稀>