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椎名林檎のグッズ炎上が「個性派キャラ」では乗り切れない理由。すでに見えていた限界とは?

NHKワールドカップテーマ曲への批判へキャラ設定で押し切った

椎名林檎「NIPPON」ニバーサルミュージック

椎名林檎「NIPPON」ニバーサルミュージック

 最も世間を騒がせた話題といえば、2014年のサッカーワールドカップブラジル大会でしょう。“右翼的すぎる”と議論を呼んだNHKのテーマソング「NIPPON」です。サッカーボールで日の丸を模したジャケットに、捉え方によっては特攻隊を思わせる歌詞が一部から批判されました。  こうした声に、当時こんな風に応えていたのです。 <ねえ。お騒がせしてすみませんでした。まさか、そんなことになるとは。組み合わせの妙だったんでしょうね。「混じり気」という歌詞だとか、「ニッポン」という読ませ方だとか。><この歌詞だって「死に物狂い」という体験をしたことがある方にとっては、別に何てことのない、素通りするような表現ですよね。> (両者とも『withnews』2014年11月17日掲載記事『椎名林檎「いつも死を意識」「子ども5、6人産む」5年半ぶり新作』より)  高所から大局を見渡し、全てを把握した随一のソングライターだと印象付ける。そうして箔(はく)をつけるために、折に触れて“お気持ち表明”をしてきたわけですね。  同じような傾向は、東日本大震災のときでも見られました。言葉のチョイスが独特すぎるお見舞い文です。 <どうか確かに生きてらしてくださいませ。案じて居りますし、お気持ちしっかり、よろしく お頼み申し上げます。>  常識的に考えればやり過ぎなのでしょうが、それでもキャラ設定で押し切れたと言えるのかもしれません。 「NIPPON」問題、東日本大震災のお見舞い。いずれも個人の思想信条や、感情表現の方法に関わるものだったので、発言も創作の一部として許されてきた。音楽やビジュアルとあわせたパフォーマンスの一環だと、世間も受け止めていたのですね。

コロナ禍でのライブ決行時は沈黙。キャラを演じることの限界

 しかし、すべてにその手法が通用するわけではありません。  ひとつが、新型コロナ初年度の2020年の東京事変ライブ。パンデミックになるかどうかの緊張が高まるなか開催された、自身のバンド東京事変の8年ぶりの再始動コンサートです(編集部注:2月29日のツアー初日、翌3月1日に行われた東京国際フォーラム ホールA公演を決行。その後の全国公演は中止)。バンド結成がうるう年であること、そして東京五輪の開催年(実際は2021年に延期)であることから、譲れない理由があったのだそう。
東京事変「2O2O.7.24閏vision特番ニュースフラッシュ」ユニバーサルミュージック

東京事変「2O2O.7.24閏vision特番ニュースフラッシュ」ユニバーサルミュージック

 2020年はEXILEやPerfumeなど、多くのアーティストが大規模ライブの中止を余儀なくされました。そんな中、椎名林檎は決行に至った経緯や理由を説明することはありませんでした。いつもの突飛な日本語で楽しませるどころか、形式的なコメントすら出さなかったのです。  これまでなら積極的かつ挑発的な物言いで世間に問いかけただろうに、黙り込んでしまった。  このとき、筆者はキャラクターを演じ続けることの限界を見ました。平凡な良識が求められる状況では、エキセントリックな個性は足かせになってしまうことを、自らの沈黙によって証明してしまったからです。  そこでキャラの鎧(よろい)を脱ぎ捨てる勇気があればよかったのですが、すでに表現に占める“特殊な”言葉の割合が大きくなりすぎていた。“大人の対応”を示す機会を逸し続けてきたように感じられたのですね。  東京五輪の開会式プロジェクトに携わったことで、“国民的アーティスト”に上り詰めてしまったこととも無関係ではないでしょう。意見の相違から開会直前にチームから離脱したとはいえ、“あの椎名林檎が満を持して”登場したというムードを自ら積極的に発信していたのは確かです。いずれにせよ高すぎる下駄(げた)を履いてしまったのですね。  その意味で、コロナ禍でのライブ強行はキャリアにおけるターニングポイントだったのだと思います。
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今、椎名林檎に求められることとは?
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