事務所社長「言う必要がないから言っていない」は通用しない
「Fujii Kaze “HELP EVER ARENA TOUR”」ユニバーサルミュージック
『週刊文春』の取材に応じた藤井風のレコード会社「HEHNレコード」の河津知典社長は、「サイババのことを隠しているわけではありません。言う必要がないから言っていないだけです」(『週刊文春』2023年1月19日号「紅白歌手藤井風(25)が“伝道”するサイババの教え」より)と語っていますが、果たしてこの説明に納得する人がどれだけいるでしょうか?
アルバムタイトルが他人の言葉であったことを知ったファンは衝撃を受けました。そこだけを取っても「言う必要がないから言っていない」という説明は通用しないはずです。
藤井風自身の“どうしたら人の信仰や精神性に口出しできるのか”という反論も、サイババ信仰が作品に反映されていなかったら全くその通り。個人の自由です。
しかし、アルバムタイトルや歌詞で一言一句違わず具体的に引用している以上、その言い分は通りません。他者のメッセージであることを隠して自身のブランドイメージを確立するのはマナー違反だからです。
“藤井風の言葉”を信じたファンを失望させソングライターとしての信用を失った
それゆえに、筆者は宗教上の問題よりもミュージシャンとしての姿勢が厳しく問われるべきだと考えます。
先述したようにカバー動画を配信した部屋にサイババらしき写真を置き、「Grace」のMVをインドで撮影するなど、ほぼ答え合わせのようなことはしているのですから、サイババを信じることに後ろめたさは感じていないのだとうかがえます。
だとすれば、サイババにまつわるもろもろの問題を引き受けたうえで、それでも自分はそのメッセージを素晴らしいと思うからインスピレーションにしていると、最初から言ってしまったほうが潔(いさぎよ)かったのではないか。それを後回しにしたために“藤井風の言葉”を信じていたファンを失望させたことの代償はあまりにも大きかった。
つまり、彼はソングライターとしての信用を失ったのです。
<文/石黒隆之>
石黒隆之
音楽批評の他、スポーツ、エンタメ、政治について執筆。『新潮』『ユリイカ』等に音楽評論を寄稿。『Number』等でスポーツ取材の経験もあり。いつかストリートピアノで「お富さん」(春日八郎)を弾きたい。Twitter:
@TakayukiIshigu4