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「お父さんはなぜ私にだけ家事をやらせるの?」ヤングケアラーを生み出す仕組みとは<漫画>

家事をしない「父親」の問題

――前回、水谷さんはヤングケアラーの家庭の特徴の1つに「父親の不在」を挙げていました。本書でも、父親は健康なのに主人公に家族の世話を丸投げしています。取材された中では、どんなタイプの父親が多かったのでしょうか? 水谷緑さん(以下、水谷):働かないとか酒乱のような分かりやすい「ダメ親父タイプ」はいなかったです。どちらかというと仕事ができて会社で認められている人が多かったです。教師や会社の経営者もいました。大企業勤めで「仕事ができればいいんだ」「稼いでくるのが父親」という考え方の人が多い印象でした。その背景には、家庭の問題から逃げたい気持ちがあるのではないかと思います。 離婚して家庭を去るお父さんもいて、そのあと新しい家庭を作って、ヤングケアラーである子供に再会した時に「俺、今すごく幸せなんだ」と報告してきたそうです。
(画像提供/文藝春秋)

(画像提供/文藝春秋)

――主人公の父親はそこまで酷くはないものの、家庭の問題に対して他人事のように振る舞うところがありますね。 水谷:完全に無視している訳ではなく、「だらしない奴だな」とか「早く起きろ」と自分にできる範囲で妻を叱ったりしています。でも病気に対しては考えたくないのだと思います。 取材した中では、最初に精神科に連れて行った時に「統合失調症は一生治らない病気です」と医師に言われたという話がありました。完治しなくても日常生活を送る上での対処法はあると思うので、医師の言い方がよくなかったのではないかと思います。そういう経験から「もうどうしようもない」と諦めてしまう父親が多かったです。

助けを求められない理由

――当事者が助けを求められないのはなぜでしょうか? 水谷:本当に「辛い」と思っていない人が多いんです。だから「大丈夫?」と聞かれると「大丈夫です!」と明るく答えてしまいます。どこかで違和感を感じていても、「自分はヤングケアラーだ」とか「家事をやらされて困っている」と自覚できないんです。 本人としては、「自分が家庭を回している」という会社を経営しているくらいの責任感があるようです。一家を回している立場なので、自分を辛い立場だと認識すると立っていられなくなるのではないかと思います。 親が精神疾患を隠している場合は「隠すものなんだ」と刷り込まれている子供もいます。「他人に言ってどうなるのかイメージが全くなかった」と言っている方もいました。 ――主人公が学校の先生に「困ってない?」と聞かれて、明るく否定する場面が印象的でした。 水谷:元ヤングケアラーで、小学生の頃すごく良い担任の先生がいたと言っている方がいました。忘れ物をした子のために、自由に使っていい文房具を入れた箱を教室に置いておいてくれたそうです。ヤングケアラーは親が持ち物を買ってきたり、チェックしてくれたりしないので忘れ物が多くなってしまうんです。だからその先生の計らいがすごくありがたかったそうなのですが、そんないい先生にも「言えなかった」と言っていました。まだ子供なので言語化が難しいですし、年齢に関わらず悩み事は人に言えないものだと思います。
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身近にヤングケアラーがいたらどうすればいい?
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